第25話 バロンウルフ討伐 2

 バロンウルフ討伐一日目の夜、オレ達は野営地にて作戦を練ることにした。

 目的はバロンウルフ討伐だけど、それ以前にキラーウルフが多すぎる。

 ザイガンさん達三級にとっては取るに足らない相手だけど、さすがに立て続けに襲われたら消耗は避けられない。


 キラーウルフの何がひどいかってこいつ、ドロップアイテムがない。

 牙や毛皮はそこそこの値で売れるけど、今は換金アイテムじゃなくて回復アイテムが欲しいところだ。

 今日だけで回復アイテムの三分の一を使い切ったのはあまりよろしくないな。


 オレは【自然治癒】のおかげで野営の間で全回復できるから問題ない。

 他の四級冒険者達はさすがに全回復というのも難しかった。

 オレ達は焚火を囲んでバロンウルフの居場所について話し合う。


「ザイガンさん達が戦ったバロンウルフはもっと山の中にいるのか?」

「いや、以前はそうじゃなかった。ただこの山は奴のテリトリーだから、もしかしたらオレ達を狩るタイミングをうかがってるのかもな」

「……それだけの魔物がなんで突然現れたんだ?」

「突然ってことはないかもしれねぇぞ。これだけ広い山だ。オレ達が見つけられなかっただけか、もしくは……」


 そこでザイガンさんは口をつぐんでしまった。

 気になるから話してくれ。


「考えたくはないがキラーウルフの魔王体の可能性がある」

「魔王体? ラスボスっぽいな」

「ラスボス?」

「いや、すまん。魔王体ってのは?」

「魔物に魔素が過度に集まって変異したものだ。こうなると通常個体の数倍から数十倍は強くなる。過去には騎士団が総力をあげた例もあって、国民の四分の一を失ったなんてこともあるらしいな」


 魔王体。その名の通り、魔物が魔の王かと錯覚するほど変異する現象らしい。

 変異する条件は現在でも研究があまり進んでいなくて謎が多いとのこと。

 これがわかれば予め魔王体候補を討伐しておけるから、人類にとってはかなり大助かりだろうな。


 バロンウルフは魔王体とは別に存在する魔物だ。

 ザイガンさん達も初めて遭遇したから、自然に生まれたバロンウルフかキラーウルフが魔王体になったものかはわからない。

 オレ個人の意見としては魔王体だと覆う。


 いくら三級のバロンウルフとはいえ、三級冒険者がザイガンさん含めて三人もいながら討伐できないなんてことあるか?

 もちろん三級の魔物全部が一律同じ強さじゃないだろうけどさ。

 魔王体の可能性があるなんてザイガンは言うけど、本当はほぼ確信しているんじゃないか?

 だから言いにくそうにしていたんだろう。 


 もしバロンウルフが狩るタイミングをうかがっているなら下手に動かないほうがいいかもしれない。

 歩き回って体力を消耗するよりは拠点を作って待ったほうがいいと提案してみた。

 小僧の一言だけどこれが意外に受け入れられてしまう。


「なるほど、確かにそれもありかもな」

「キラーウルフと戦ってきて思ったけど、あいつらオレ達が思ってるよりずっと頭いいぞ。オレの注意を引きつけてリコを狙ってきたからな」

「そういえば少しずつやりづらくなった気がするな」

「だったら尚更無駄に体力を消耗するのは危ないよな」


 オレの提案に改めて皆が賛同した。

 的外れだったらすまないけどオレとしては最悪バロンウルフを討伐できなくてもいいと思っている。

 ここで無理をして全滅するほうがどう考えても最悪だからな。


 腹ごしらえにオレが【料理】スキルで食事を作るとなかなか喜ばれた。

 野営にしては贅沢なすき焼きだ。

 材料が多くて野営で作るには向かない料理だけど【アイテム圧縮術】のおかげで問題ない。

 肉でたんぱく質、野菜でピタミンを補給できるから理にかなっているはずだ。

 タレは有り合わせの食材で作ってみたけど、なんとなくそれっぽい味になっていて安心した。

  

「リコ、うまいか?」

「んまっ……」

「ぴぃりゅるるるぃーー……くちゃくちゃ……」

「食い方が野生的すぎるな、マルルー……」


 リコがリスみたいにほおばって食べて、そして喉を詰まらせる。

 マルルーが肉ばかりついばんで野菜を食べないのはまぁいいか。

 謎の生物に栄養の偏りを説いてもしょうがない。


「こりゃうめぇ! 精がつくぜ!」

「シンマ、お前はいいお嫁さんになれるぞ!」

「俺なんか新婚の時はメシ作ってくれたのに最近はさっぱりでなぁ……」


 オレは男だ、と突っ込むだけ野暮な気がしてきた。

 倦怠期の夫婦のリアル話とか誰も望んでない。

 どこの世界でもそういうのはあるんだな。


 夜の番は交代ですることになっている。

 オレの【心の耳】があれば遠くの音まで聞こえるし、マルルーもいるから守りは万全だった。

 ただこのタイミングをもってしてもバロンウルフが襲ってこない。

 おかげで一日目は無事に終えることができた。


 二日目からはオレ達が拠点を守りつつ、体力が高いザイガンさんを主力として偵察チームに分かれることにした。

それから更に二日間、淡々とキーラウルフ達が襲撃を繰り返してくる。

 滞在日数的に残り一日しかなく、さすがの皆も焦りが見て取れた。


 このままだとジリ貧になるのは間違いないということで、こちらも作戦を講じる。

 バロンウルフはおそらくキラーウルフを従えているということで、少しでも戦力を減らそうという狙いだ。

 ゲームでいう釣り出しってやつだな。


 オレ達は新人ということで大切にされているらしい。

 拠点の防衛といいつつ、釣り出したキラーウルフは他の冒険者達が討伐してくれる。

 とはいえ、オレ自身も強くなりたいから戦いたいというのが本音だ。


「ザイガンさん、オレ達も戦うよ」

「いいからお前らは大人しくしていろ」


 ザイガンさんは頑なにオレ達を大人しくさせたがる。

 気を使ってくれるのはありがたいけど、こっちはこっちでなんだか申し訳ない気分になるんだよな。

 仕方ないのでオレは【心の耳】で音を拾うことに集中した。


 依然としてそれらしい音は聞こえない。

 空を見上げるとマルルーが偵察から戻ってくるのが見えた。


「何かいたか?」

「ぴぃー! ぴぃーーーー!」

「ぴぃーじゃよくわからんがすごいのがいたのか?」

「ぴぃっ!」


 マルルーが丸い体ごと強く頷く。

 オレは即立ち上がってザイガンさんに伝えた。

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