第24話 バロンウルフ討伐 1
レイドクエスト当日、オレ達は朝から冒険者ギルドに集まっていた。
経費は各自が出し合うことになっていて、野営なんかに必要なものは分担で持つことになっている。
オレは【アイテム圧縮術】のおかげで他の人より多く持つことができた。
隠していようが少し迷ったけど、皆の生死がかかっているのに隠す理由がない。
ただでさえオレ達だけ五級と例外的に参加を認められている状態だ。
そんなオレが皆の生存率を上げることができるのなら素直に嬉しい。
「お前、そりゃどういう仕組みだ?」
「ひょんなことから手に入れてな」
「そうか」
さすがザイガンさん、余計な追及はしてこない。
だけどこれから先は適当な理由を考えておかないとな。
皆が皆、ザイガンさんみたいな分別のある人じゃない。
滞在日数は五日と、なかなかの長丁場だ。
参加人数はザイガンさんとオレ達を含めて十三人、三級冒険者が三人で残りが四級とオレ達五級となっている。
もちろんマルルーは数に入ってない。
だけどこいつは索敵にめちゃくちゃ役立つ。
「ぴぃぃーーー!」
「あっちに固まっているのか? 何匹くらいだ?」
「ぴっ! ぴっ! ぴっ! ぴっ! ぴっ! ぴっ! ぴっ! ぴっ!」
「八匹か、わかった」
マルルーの翼が指みたいに動いて数を示してくれる。
関節とかあるのかみたいな突っ込みを入れる余裕があるのはオレくらいだ。
そもそも皆からしたらこいつの存在自体が謎だからな。
「お前、前々から気になってたんだがそいつはなんだ?」
「ひょんなことからなつかれてな」
「そうか」
さすがザイガンさん、余計なことは追及してこない。
他のメンバーといえば、ヒソヒソと思いっきり訝しんでいるけど気にしないようにしよう。
マルルーの索敵のおかげで後手に回ることがなくキラーウルフを討伐できるのはかなりのアドバンテージだ。
キラーウルフは群れでチームプレイを駆使する。
すぐには襲いかからずにタイミングを計るから、同じステータスの他の魔物よりだいぶ手強い。
五匹がオレ達を狙おうとする前にザイガンさんが特攻した。
先制で一匹を倒したところで後続から俺達が続く。
【剣(ソードマン)】にスキル進化したことで、キラーウルフ達が二匹同時に襲いかかってこようと問題ない。
新たに使えるようになった斬り払いでキラーウルフ達の牙を弾いてから追撃を入れることができた。
素早さが高い魔物だろうと、攻撃を弾かれてノックバックした瞬間は無防備だ。
無理に追うよりも向かってくるところを狙ったほうがいい。
実はザイガンさんのアドバイスのおかげでもある。
「今のお前なら俺みたいにカウンターをかますこともできるはずだ」
「それってザイガンさんの戦闘スタイルだよな?」
「盾を持ってないからリスキーではあるけどな。その分、身軽に動ける。ただし一度に相手にするのは多くても二匹までだ」
「わかった。ありがとう」
基本的にザイガンさんが盾になりつつ牽制、敵のフォーメーションを崩しつつオレ達が斬り込む作戦だ。
ザイガンさんならかなりの数のハンターウルフを相手にできる。
その気になれば盾ごと体当たりするんだから、なかなか豪快だよ。
オレも盾を持てばスキル進化するかな?
だけどいくらスキルの数が増えてもオレの体は一つだ。
今はあれもこれもとスキル進化させるよりも剣一本に絞ったほうがいいと思った。
これからのことを考えると色んな状況や相手に対応するために手段を増やす予定ではある。
「リコ、大丈夫か?」
(う、うん)
言葉にはしなかったけどリコは少し戦いにくそうだ。
それもそのはず、これだけの集団戦なんて未経験だろうし魔法が味方に当たる可能性がある。
そのせいで氷柱の魔法の命中精度がよろしくない。
これは盲点だったな。
リコの圧倒的な魔力ばかりに目がいって、そういうところに気がつかなかった。
本来はレイドクエストの作戦会議でオレが伝えるべき事項だ。
仕方ないからオレがしっかりとフォローしてやる必要がある。
これをザイガンさんに伝えたところ、オレとリコは後方を任された。
マルルーの索敵があればある程度は敵が襲ってくる方向がわかる。
後方に何人か割いていたところをオレ達二人だけになった。
「お嬢ちゃんのことは俺も気づかなかった。すまない」
「いや、いつも一緒にいるオレの責任でもある。とにかく後ろは任せてくれ」
「あぁ、お前達なら数匹程度のキラーウルフならどうってことねぇ」
これはオレだけじゃなくてリコにとってもいい経験になるはずだ。
ここで集団戦を経験してよかった。そう思えるような結果を出すしかない。
戦い方としてはオレはなるべくリコから離れずにキラーウルフが近づくまで待つ。
注目すべき点はリコに一番近いキラーウルフだ。
リコは魔力はずば抜けているけど接近戦に対応できない。
ステータス自体はかなり貧弱だからキラーウルフの攻撃で致命傷になりかねなかった。
「ぴっ! ぴっ! ぴっ! ぴっ! ぴっ……」
「とにかくたくさんってことだな!」
「ぴぃー!」
ぴっぴっを待っていたら後手に回る可能性がある。
それに翼でしっかりと15の数を示してくれていた。
いや、15だって?
「かなりの数がくるってことか!」
「やけに多いな」
「バロンウルフのせいだ! 奴がキラーウルフの統制をとっている!」
「ということはオレ達はバロンウルフに近づいてるってことになるな」
キラーウルフが波状攻撃を仕掛けてくる。
いくらザイガンさんとはいえ、一人だけで持ちこたえられる数じゃない。
三級冒険者を中心として基本的に前方を死守、側面が危うくなれば少しずつ立ち位置を変えた。
前方と側面がそっくり入れ替わることで被害を最小限に抑えられる。
オレの提案が功を成したのか、リコの氷柱の命中精度が上がった。
あの素早いキラーウルフに氷柱を直撃させて確殺している。
ちらりと見たザイガンさんはひゅーっと吹いて口を尖らせていた。
「魔法なぁ。俺が逆立ちしたって持ちえない素質なんだよ……なぁッ!」
気合いを入れたザイガンさんがキラーウルフを斬り捨てる。
確かに惚れ惚れする威力だ。
オレも負けていられず、剣を思いっきり水平に振った。
「はぁぁーーッ!」
「がぁっ!」
一気にキラーウルフを三匹まとめて倒せた。
【剣(ソードマン)】にスキル進化した時に覚えた飛閃だ。
威力は多段斬りに劣るけど、前方の敵複数にダメージを与えられる。
思ったより手応えがあったな。
さすがにこれだけ戦い続けていればステータスも上がっているから、そのおかげだろう。
あれだけ厄介だったキラーウルフを余裕を持って討伐できるようになっていた。
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