第22話 決闘
翌日、オレとザイガンさんの試合が訓練場で行われることになった。
レイドクエストは人員の関係で五日後ということになっているから、そっちに支障はない。
どこで聞きつけたのか、見物人の中には一般人が割と多かった。
ザイガンさんはこの町に密着して活動しているから信頼もある。
それに対してどこの馬の骨ともわからない新人が挑むわけだ。
これはなかなかのアウェーだよ。それを望んだのはオレだから文句はないけど。
名前:ザイガン
HP :???
MP :???
力 :???
きようさ:133
体力 :268
素早さ :104
魔力 :???
スキル:【剣Lv8】【盾Lv3】【根性】【底力】
鍛えているうちにザイガンさんのステータスの一部が見えるようになっていた。
これがオレのステータスに応じた結果なのか、スキルの成長によるものかはわからない。
オレが確実に強くなっているという証だ。
そして時に真実は残酷なこともある。
見えているパラメータだけでも桁違いで、特にこの体力は無限に動き続けられるんじゃないか?
素早さが極端に低いところからして、やっぱりザイガンさんは重戦士タイプだ。
でも今日は模擬戦用の武器を使うから死ぬ恐れはない。
それでも実力差は明白だから普通に考えて勝ち目は薄い。
昨日はあんなことを言ったけど、本音を言えばレイドクエストに参加することによる成長機会を逃したくないからだ。
スキル進化という性質上、どんなシチュエーションで進化するかわからない。
だから少しでも経験を積みたかった。
「さすがに実力差があるからな。俺は盾を使わないで戦おう」
「ありがたい」
わざわざハンデをくれたということは、少しはオレに期待してるってことか?
なんだかんだでオレにチャンスを与えているのか。
だったらぜひとも期待に応えないとな。
「ぴぃー! ぴぃーー!」
(シンマ……)
リコとマルルーの前だ。大恥はかけない。
審判はギルド員がやってくれるみたいだ。
「どちらかが参ったと言えば試合終了、その他勝敗の判定は私が行う」
「おう」
「わかりました」
オレとザイガンさんが構えて合図と共に試合開始した。
オレは躊躇なく踏み込んで二連斬りを放つ。
「フンッ!」
ザイガンさんがその場で踏ん張ると同時にオレの剣が停止した。
ザイガンさんの剣にオレの二連斬りがあっさりと受けられている。
まるで巨大な岩のごとくビクともしない。
「だいぶ強くなったなぁ。初めて会った時とは別人だわ、こりゃ」
「だったらどうする……?」
ザイガンさんがもう一度踏ん張ると今度はオレのほうが吹っ飛んでしまう。
尻餅をつきかけるけど何とか体勢を立て直す。
ザイガンさんは追撃もせず、剣をもったままだ。
「こちとらお前が生まれた時から冒険者をやってるんだ。俺と同じ時期に冒険者を始めた奴らは皆、引退したか死んだよ。この意味がわかるか?」
「地力が違うって言いたいんだろ? そんなことはわかっている」
「二十代の頃、自信をつけた俺は騎士団の入団試験を受けた。俺なら早々出世して数年以内に部隊長になれる、ひょっとしたらお姫様と結婚できるかななんて妄想していたくらい馬鹿だった。ところが結果は一次試験で不合格、門前払いだ。あの時ほどプライドが砕かれた時はなかった」
「……騎士団は化け物揃いってことか」
そんな自分に敵わないんだからお前も身の程を弁えろとザイガンさんは言いたいのか。
だけど言われなくてもオレが不甲斐ないのはわかっている。
そんなもの前世で散々思い知ったからな。
オレは剣を構え直してザイガンさんに挑んだ。
相変わらず岩でも斬りつけているかのように剣で受けられて、こっちの手が痺れてくる。
その後、ザイガンさんが斬り込んでくるたびにオレは吹っ飛ばされた。
「シンマよぉ。お前は数年も努力すりゃ俺なんかよりずっと強くなる。だからこそ冷静になってほしいんだよ」
「足手まといにはならないって言ってるんだけどな」
「聞き分けのない奴だなぁ。じゃあ、そろそろ決着をつけるか」
ザイガンさんの雰囲気が変わったと同時にオレは悪寒が走った。
オレは思わず後退して、ザイガンさんが一気に踏み込んでくる。
「オラァァーーー!」
「ぐぅぅッ!」
オレはさっきとは比べ物にならないほど大きく吹っ飛ばされた。
体勢を立て直したところでザイガンさんの追撃が来る。
転がって回避したけどすぐには起き上がれない。
まずいな。次は受けきれ――
「シンマッ! シンマーーー!」
「リ、リコ……」
リコの体から魔力が迸った。
全身が凍り付いたかと錯覚したほどで、オレを含めたこの場にいる全員が動けない。
あのザイガンさんですら体を硬直させたままだ。
「シンマ……!」
「リコ、落ち着け。これはオレが望んだ戦いだ。誰も悪くない」
オレがそう言うとリコの魔力が落ち着いたのか、場に暖かさが戻ってくる。
すっかり忘れていたけど、リコの魔力は神世界レダのお墨付きだ。
もし我を忘れて制御できなくなったら大変なことになるかもな。
「な、なんだってんだ……」
「ザイガンさん、すまない。続けようか」
リコの暴走を予想していなかったのはオレの責任だ。
ゴブリンやキラーウルフ相手にピンチに陥ることがなかったから、こうなるとは思わなかった。
リコは気を落ちつけたものの、座らずに立ったままだ。
「まだ寒気がしやがる……」
「ザイガンさん、こないならオレからいくぞ」
オレとザイガンさんが向き合って構え直す。
迂闊に踏み込んでもあのパワーで弾かれてしまうだけだ。
どうしたものかと考えていると、ザイガンさんが少しずつ距離を詰めてくる。
「ゴチャゴチャ考えている暇はあるのか?」
まったくもってその通りだ。まずいな。この間合いは本当にまずい。
オレの躊躇を手に取るように把握したザイガンさんが踏み込んできた。
「これで終わりだぁッ!」
オレはとっさに剣で受けようとするが、受けきれるわけがない。
ダメか――そう思った時だった。
≪【剣(見習い)】から【剣(ソードマン)】に進化しました≫
オレの剣がザイガンさんの剣を弾いた。
あの凄まじいパワーをオレが?
「なにッ!?」
さすがに虚を突かれたザイガンさんがガラ空きだ。
この時、オレは自分の腕が驚くほど軽やかに動いた。
ザイガンさんの剣筋、どこをつけば崩せるか。
今の場合はザイガンさんの剣の側面を叩くことによって、力を真正面から受けずに流した形になっている。
一瞬でそれを頭に叩き込まれたみたいな感覚だ。
「ど、どうなってやがる……」
さすがのザイガンさんも狼狽えている。
さっきまでのオレとは別人の動きをしてきたんだから当然だ。
これは紛れもないチャンスと見て、今度はオレがザイガンさんに攻め立てた。
「はぁぁぁぁーーーー!」
「ぐっ! は、速いッ!」
まるで何かが戦い方を教えてくれているかのように、ザイガンさんの剣をごとごとく弾くことができる。
ザイガンさんの剣にオレの剣が連撃のごとくヒットした。
「多連斬りッ!」
衝撃で体勢を崩したザイガンさんの喉元に剣を突きつけてピタリと止めた。
「……マジかよ」
ザイガンさんも審判も見物人も言葉を発せない。
オレは剣を突きつけたまま動かすつもりはなかった。
「参った。俺の負けだ」
ザイガンさんが敗北宣言をして、オレは剣を下ろした。
静まり返った訓練場に歓声が沸き起こる。
「マジか! ザイガンさんが負けた!」
「ザイガンさん、ウソだろ!? 手加減したんだよな!」
「信じられねぇ!」
誰もがザイガンさんの敗北に驚いている。
そりゃオレだって驚くよ。
スキル進化一つでこうも結果が変わるんだからな。
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