第21話 レイドクエストの参加資格

 【鉄器作成】でオレは調理用のナイフや鍋、フライパンを作ることにした。

 野営の時にこういった備えがあれば万全だろう。

 【解体】だって大きい剣じゃどうしてもやりにくいし、肉がズタズタになるからな。


 自分の武器ばかりじゃ悪いからリコの杖も作ってやろうと思った。

 ところがこの杖という武器、どう作っていいのかさっぱりわからない。

 武器屋に行って杖について色々と聞いてみたら魔石というものが必要だと説明された。


 【鉄器作成】だけで完成できるものじゃないみたい上に、リコの杖はかなりの上物だという。

 武器屋のオヤジが食い入るように見て感心していた。

 この町の武器屋でも杖は取り扱っていないし、どちらかというと魔道具屋のほうが専門みたいだな。


「これどこで手に入れたんだい? 若い頃は王都の魔道具屋で働いていたけど、こんなものお目にかかったことがない」

「な、なんかプレゼントされたんだよな。リコ?」


 リコはオレ以外とは一切話さない。

 だからこうしてフォローしてやらないと気を悪くされてしまう。

 たぶん神世界レダで与えられたものだろうけど、ますますあいつらの実態がわからないな。

 存在自体が幻というか、誰にも認知されていない。


「特にこの魔石……とてつもない純度だな。それに見たこともない色合いをしている。ふーむ……」

「ありがとう。また来るよ」


 オレは適当に話を打ち切って店を出た。

 わかったことは今のオレじゃ杖は作れないということだ。

 そもそも魔法すら使えないんだから魔道士用の武器なんか無理だよな。


 武器屋を出て昼の鐘が鳴る前、訓練場へ向かった。

 オレの勘だけど、あと少しで【剣(見習い)】がスキル進化してくれそう。

 最初にザイガンさんと模擬戦をやった時は一瞬で負けたけど、最近は何秒か戦えている。


 でも訓練場に着いて見回したけど、今日はザイガンさんはいないみたいだな。

 オレは近くにいる冒険者にドーマさんに聞いてみることにした。

 最初に目が合った時は睨まれたけど、今は普通に話せている。


「ザイガンさんはどこに?」

「あぁ、シンマか。あの人は昨日からキラーウルフ討伐に出ているぞ。なんでもここ最近、キラーウルフが大規模な群れを作っているみたいでな」

「キラーウルフの大規模な群れ? いくら三級とはいえ大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃないから他に腕を認めた冒険者を引き連れていったよ。俺か? お留守番だよ、聞くな」


 別に何も言ってないんだけどな。

 ザイガンさん、この人よりステータスが高いオレにも声をかけなかったのか。

 訓練場内に残っている冒険者達を見ると、オレよりステータスが高い人がちらほらいる。


 あのすばしっこいキラーウルフの大規模な群れか。

 それから昼の鐘が鳴った後まで訓練場で訓練をした。

 今のオレならドーマさん他、ザイガンさん以外に模擬戦で負けることはほぼなくなってきている。


 それから最近になってオレにも技を繰り出すことができた。

 ソードゴブリンが放ってきた薙ぎ払いや二連斬りを駆使すれば勝率はグッと上がる。

 これに驚いたのはドーマさん達だ。


「お前、いつの間にそんなもの使えるようになったんだよ。ついこの前とは別人だな」

「そ、そうかな?」


 確かに自分でも成長が少し怖い。

 今、ザイガンさんと戦ったら更に何秒か延長して戦えそうだ。


 リコがオレの額を布でぬぐってくれるのはいいんだけど、何も言わなければいつまでも拭き続ける。

 オレはやんわりとお礼を言ってやめさせた。


「その子は魔道士だったな。退屈させちまってすまない」

「なんでドーマさんが謝るんですか?」

「本来は先輩である俺達が何かしてやるべきだろ。でも俺達の中に魔法を使える奴はいない」

「そんなこと気にしなくても……」

「ザイガンにも置いていかれちまったからな」


 そうか、やっぱり気にしているんだな。

 気にしてなかったら訓練場になんかいない。

 そこへ他の冒険者がオレにこっそり耳打ちしてきた。


「ドーマの奴、ついこの前までさぼりがちだったけど最近は頑張ってるんだよ。お前のおかげかもな」


 そうだったのか。

 オレなんかが刺激になってくれたら嬉しいけど、きっと偶然だろう。

 この耳打ちが聞こえたのか、ドーマさんが冒険者を少し睨みつけた。


 なんとも言えない空気の中、冒険者ギルドのほうが騒がしくなる。

 声を聞く限り、ザイガンさん達が帰ってきたみたいだ。

 向かってみるとだいぶ消耗した様子のザイガンさん達がいた。


「ザイガンさん、無事だったんだな」

「シンマか。少し手を焼かされちまったよ。さ、報告、報告っと……」


 ザイガンさんがギルドの受付で報告と清算を行っている。

 なんだかいつもの余裕が感じられないな。

 まさか討伐はうまくいってないのか?


 他の冒険者達もザイガンさんに次ぐ強さのはずだ。

 大きな怪我を負ってはいないものの、疲れ切って椅子にどっかりと座って項垂れていた。


「……以上です。お疲れ様でした。こちらが報酬です」

「ありがとよ。ついでに次は俺からの依頼だ。レイドクエストを出す」

「レイドクエストですか!? それより、お話を聞く限りでは王都の騎士団に討伐依頼をするべきです! すぐにこちらで手続きをします!」

「騎士団の到着を待つのはリスクがある。いつあのバロンウルフが群れを率いてこの町までやってくるかわかんねぇ」


 バロンウルフと聞いて場が騒然とした。

 ザイガンさんの仲間は何も反論しない。


「マジかよ……バロンウルフといえば確か三級相当じゃなかったか?」

「でもそれなら三級のザイガンさん達だけでどうにかならないか?」

「バカか、お前。冒険者の等級はあくまで目安だ。三級は三級の魔物を討伐する資格が与えられたってだけで、必ずしも討伐できるわけじゃない」

「そ、そうか。三級の魔物を確実に討伐するなら二級以上だよな」


 等級はあくまでバロンウルフ単体でのものだ。

 バロンウルフは群れを率いているから、脅威はバロンウルフだけじゃない。

 それにザイガンさんの言う通り、騎士団の到着を待っている暇があるかどうか。

 だとしたら少しでも戦力は多いほうがいいんじゃないか?


「ザイガンさん。そのレイドクエスト、オレ達も参加できるか?」

「あ? あぁ、オレがつける条件次第では可能だ。だが五級の参加は許可しない」

「そんなこと言ってる場合か?」

「前途ある後輩を無駄死にさせるわけにはいかないんだよ。お前達じゃ足手まといになる」


 ザイガンさんはキッパリとそう言い切った。

 それでもザイガンさんの声はどこか弱々しい。

 本当は猫の手も借りたいのかもしれない。


 世話になった町が襲われる可能性があるってのに、黙って見てろってか?

 ザイガンさん達、ベテランにとってはオレなんか猫どころかネズミだろう。

 せめてネズミでも、猫くらい噛んでやる。


「ザイガンさん。レイドクエストの前にオレと勝負してくれ」

「なに?」

「オレが勝ったらレイドクエストへの参加を認めてもらう」

「……付き合ってる暇はねぇ」

「逃げるのか?」


 オレは立ち去ろうとするザイガンさんの背中に向けて挑発した。

 ゆっくりとこちらを振り向いたザイガンさんとオレの目が合う。

 さぁ、こんな小僧に舐められたまま黙っていられるか?

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