第20話 スキル進化の仮説と武器作成

 オレ達の朝は早い。

 この世界では時計がなくて、町の中央にある鐘が時間を知らせてくれる。

 ただしおおまかに早朝と昼前、昼、夕方の四回しか鳴らない。


 早朝の鐘で起床すると同時にオレ達は冒険者ギルドへ向かう。

 五級にできる仕事なんてそんなに多くないから選り好みしていられない。

 何もなければ皿洗いや配達コースだ。


 そんな仕事でも一生懸命にやっていれば認められる。

 オレはついにオーナーから調理補助を任せてもらえるようになった。

 食材を切ったり漬けておく程度の作業だけど、これはこれで勉強になる。


≪【料理】スキルを習得しました≫


 真面目にやっていれば身になるもので、ついに【料理】のスキルを習得した。

 冒険者なのに雑用みたいな仕事ばかりやっている風変りな小僧だとか色々言われてるけどな。

 でも悪い意味じゃないだろう。


「お前ら、冒険者なのに熱心にやってくれるじゃないか。ほれ、これをとっておけ」

「え? 店長、これって冒険者ギルドで受け取る報酬とは別ですよね?」

「そうだ。がんばってくれているからな」

「ありがとうございます」

「冒険者ってのはこういう依頼に見向きもしなくてな。大体が出稼ぎ労働者だ。でもばっくれる奴も多くてなぁ」


 店長の愚痴を聞かされるはめになったけど、認められるってのは気持ちいい。

 こんなの前世じゃ考えられない体験だ。

 一方でリコはまだ皿洗いだけど、最近は皿を割らないようになってきた。

 割った分は必ず弁償して頭を下げた甲斐があったな。


 ザイガンさんにこのことを話すと、昇級は案外早いかもしれないなんて言ってくれた。

 実は採取や討伐の依頼ばかりにかまけて無理をする冒険者が少なくないらしい。

 怪我をするのはもちろんだし、いつも採取や討伐の依頼があるわけじゃない。


 そんな時に冒険者ギルドでくつろいで駄弁っているのが何人もいた。

 確かにあの人達はいつ仕事をしているんだろうな?

 ステータスもオレより低い人がちらほら目立ち始めた。

 それだけオレ達が成長してるってことだな。


 討伐依頼がない日は欠かさずザイガンさん達と訓練をしている。

 相変わらず歯が立たないけど、アドバイスをもらえるのはありがたい。


「……昨日より動きがよくなっているな。思ったより飲み込みが早いかもな」

「それは嬉しいよ。でもまだまだ敵わないよ」

「いや、なんていうかだな。こんなに短期間で変わる奴も珍しいというか……」

「うーん、確かに昨日はザイガンさんの斬り返しに成すすべなかったよなぁ」


 オレ自身もそれは少し感じていた。

 森の中にいた時も、剣を扱えば扱うほど自覚できるほど実力が向上している。

 そこでオレは一つの仮説を立てた。


 【剣(見習い)】というスキル表示だけど実は隠しパラメータみたいなものがあるんじゃないか?

 【剣(見習い)Lv1】といったように、オレには見えないけどそれが一定の値に達したらスキル進化する。

 Lvか、もしくは経験値かわからないけど。


 【剣(チャンバラ)】の時から比べると今のオレは別人だ。

 【剣Lv1】といった段階ごとに成長するよりもオレの場合は【剣(チャンバラ)】【剣(見習い)】と、そもそもスキル名が違うからな。

 独立したスキルからスキルにどんどん進化していると考えたほうが納得できる。


 そう考えたオレはまず【木器作成】を積極的に鍛えてみることにした。

 【料理】スキルといい、戦い以外のスキルも重要だと思ったからだ。

 建設現場から廃材をもらってきて適当に木で何かを作ってみる。宿の一室での作業だ。


≪【木器作成】が【鉄器作成】に進化しました≫


「お! これは!」


 狙い通り、スキル進化してくれた。

 鉄器作成ってのはその名の通り、鉄も扱えるようになったってことか?

 だけど一つだけ気になることがある。


 オレはもう一つ、木でペンダントを作ってみた。

 うん、問題なく作成できるな。

 これはあくまでスキル進化だから、木器が作成できなくなったわけじゃない。

 スキル進化なので【鉄器作成】は【木器作成】の完全上位互換だ。

 木器だけじゃなくて鉄器も作れるようになったよといったところだな。


「リコ、これあげるよ」

(これって……)


 リコにあげたのは氷の結晶をイメージした形のペンダントで首から下げるタイプのものだ。

 大したものじゃないけど、どうせ作るなら誰かに使ってもらいたい。

 リコは指ですりすりと撫でて少し戸惑っている様子だ。余計なお世話だったか?


「いらないなら壊すけど……」

「んやっ!」


 んやってなんだ。リコは木のペンダントと首からさげた。

 それから頬を赤らめながら大切そうに握る。

 クオリティは悪くないはずだけど、気に入ってもらえたか?


「よ、喜んでもらえたならよかった」

(シンマが……私に……)


 スキル進化を期待して作ったものだから、そこまで喜ばれると少し罪悪感がある。

 リコが満足してくれている間、オレはさっそく物持ちゴブリン達から手に入れた武器を並べてみた。

 鉄器作成ということは武器も作れると判断したからだ。


 それを確かめるべくオレはソードゴブリンが持っていた剣を素材にして、生まれ変わらせてみることにした。

 ザイガンさんによれば、冒険者の中には生産系のスキルを持つ人もいる。

 そんな人達が重宝しているのが簡易鍛冶セットだ。

 値段はピンからキリで、オレは当然一番安いものを購入した。


 それからオレが元々使っていた剣と掛け合わせてハンマーで打つ、打つ、打つ。

 こりゃすごい。簡易溶鉱炉で熱された剣がみるみると変形していく。

 やがて出来上がったのはアイアンソード+2だ。


 このプラスの値はたぶん経験を積めば上がっていく。

 少なくとも今まで使っていたプラスなしのものよりは格段に切れ味が上がっているはずだ。


「ふふふ……どうだ、リコ。これでオレもまた強くなれるぞ」

(あ……)

「どうした?」


 リコの視線の先には火が燃え移った絨毯があった。


「うおおおぉぉぉぉ!? やべぇーー! 火事だ! 火事になる! 鍛冶だけに!」

(消す……?)

「頼むぅ!」


 リコのおかげで大事には至らなかったけど、宿の備品である絨毯の弁償はしっかりとやった。

 スキル進化でついテンションが上がって、こんな簡単なことにも気が回らないとは。

 リコがいてくれて本当によかったよ。 

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