第19話 昇級への道

 山から冒険者ギルドに帰った時にはすっかり夜だった。

 この町の冒険者ギルドは夜もしっかり開いているというから助かる。

 受付にいる人は女性じゃなくておっさんに変わっていたから交代制みたいだな。


 野草の採取とゴブリン討伐依頼の報告と完了手続きを進めることにした。

 ゴブリンは討伐証明である耳を提示すればOKとのこと。

 この人は【鑑定Lv1】持ちだから、ゴブリン程度なら耳を見ただけで把握できると言った。

 

 それって地味にすごくないか?

 オレの【観察】スキルは死んだ直後の死体なら情報が得られるけど、時間が経っていたらダメだ。

 また死体の一部で可能かどうかも怪しい。


 オレは思わずおっさんを見ると、熱心にゴブリンの鑑定をしている。

 この世界には一般人でもなかなかのスキルを持った人もいるということか。


「これだけの物持ちゴブリンがいたとはなぁ」

「物持ちゴブリン?」

「武器を持っている個体をそう呼んでいるんだよ。物持ちがいいなんて皮肉の意味でな」

「物持ちだけじゃなくてちゃんと使いこなしていましたよ」


 成人より小さいのに武器を振り回して戦うんだから大したもんだ。

 熱心に鑑定しているおっさんを見て、オレはふと疑問に思った。


「ギルドに勤めている人は皆、【鑑定】スキルを持っているですか?」

「最低でも【鑑定Lv1】以上がここで働ける条件だな。【鑑定Lv2】以上だと出世が早いし待遇もよくなる」

「オレは【観察】スキルならあるんだけどなぁ」

「観察ぅ? そりゃ珍しいな、聞いたことないぞ」


 【観察】スキルは一般的ではない?

 おっさんによれば鑑定スキルはLvによって鑑定できるものや情報量が違う。

 冒険者ギルドには【鑑定Lv2】以上のスキルを持つ上級鑑定士というものがいて、部位を見ただけで個体が判別できるようだ。

 つまりオレのスキルが進化したら、いずれその境地に至る可能性があるってことか。

 でもなんでオレのスキルは【観察】なんだ?

 【鑑定Lv1】ならわかるんだけど、どうにも納得がいかない。


「よし、これが報酬だ。お前ら、新人のくせに何者だよ……」

「17万ゼル!? あぁ、野草の買い取り額も含んでいるのか。それにしてもすごい額だ……」

「五級の成果にしちゃ上出来どころじゃないぞ。お前らほど野草を持ち帰るとなれば三級の実力は必要だと見ていたんだが……」

「これだけで暮らしていけそうだなぁ」

「それが堅実だろうな。だけどいつ死ぬかわからん仕事だぞ。ギルド員の立場では大きな声じゃ言えないが、他の仕事を探したほうが長生きできるだろうよ」


 野草採取とゴブリン討伐の報酬額の平均9万ゼルらしい。

 これだけ聞くと羽振りがよさそうだけど、実際は遠征費を引くと手元に残るのは3万ゼル前後なんだとか。

 皿洗いの日給が5000ゼルだったことを考えると、堅実に稼ぐか一発を狙うかは個人の価値観によると思う。

 オレは金のためじゃなくて進化のために生きているから、どんどん冒険者の仕事をしたい。


                * * *


「ほぉ! そりゃとんでもないな! こりゃすぐ四級に昇級できるぞ!」


 訓練場で汗を流していたザイガンさんが感心した。

 オレも訓練のためにやってきて、たまにはここで鍛えてもらうことにしている。

 特に剣に関しては完全に素人だからな。


 ザイガンさんと模擬戦をしたけど、やっぱりまるで敵わない。

 しかも先にきて散々汗をかいた後でこの結果だよ。


名前:ザイガン

HP :???

MP :???

力 :???

きようさ:???

体力 :???

素早さ :???

魔力 :???

スキル:【剣Lv8】【盾Lv3】【根性】【底力】


 ステータスが丸っきり見えないんだもん。

 少なくとも今のオレと三級の冒険者では大きく差がある。

 しかもこの模擬戦では盾を使ってないというんだから、尚更子ども扱いだった。

 盾を失くした時の戦い方も想定して訓練しているんだとさ。

 この上昇志向はぜひ見習いたい。


「ハァ……ハァ……あぁ、つえぇ」

「ワハハハッ! そりゃそうだ! このベテランが昨日や今日に冒険者になった小僧に後れをとるかってんだ!」

「チクショウ、絶対いつか勝ってやる」

「お前も筋は悪くないぞ。ただオレみたいなベテランはお前みたいに勝負を焦ってる奴は見ただけでわかる。だから隙を突かれるんだよ」


 確かに一歩間違えれば死んでいたと思える場面がそこそこあった。

 リコとの戦いでも、一歩間違えればオレが死んでいたはずだ。

 そのリコは隅でちょこんとお座りして大人しく待っている。

 一緒に訓練できたらいいんだけど、魔法の使い手がこの町にはいないというから仕方ない。


 わかってはいたけど、オレとザイガンさんじゃやっぱり絶望的な差があるなぁ。

 冒険者達がそんなオレを口々にフォローしてくれる。


「ザイガンはこの町じゃ一番強いんだ。負けて当然だ」

「なーに、俺もずっと負け越しているぞ。そう気落ちするな」

「それだけ強ければいずれ騎士団から……おっと」


 冒険者達の一人が慌てて口を閉じた。


「ザイガン。すまない……」

「気にするな。そんな大昔のことなんて気にしてないからよ。今じゃ俺ごときを入団させるような騎士団じゃなくてよかったとすら思ってるぜ? ワハハハハッ!」

 

 ちょっと待て。

 ザイガンさん、もしかして騎士団の入団試験か何かに落ちたのか?

 ザイガンさんほど強くてもお断りされるようなところなのか?

 なんだか途端に先が見えなくなってきたぞ。

 詳細が気になるところだけど、さすがに追及できる空気じゃない。

 

「そんな俺でも、だ。シンマ、お前はたぶん四級くらいの強さはあるように見えるぞ」

「四級への昇級はギルド側にある程度の実績が認められたらいいんだっけ?」

「そうだな。詳しい基準は一切明かされてないんだが、どうも素行なんかも見られているという噂だぞ」

「素行かぁ。オレとリコはいい子にしてるから問題ないな」


 リコなんか見ろ。ちゃんと正座して微動だにしないぞ。

 マルルーもリコの膝の上で寝ている。

 こんなにお行儀のいい冒険者なんて他にいるか?


 と、思ったらめっちゃ頭かっくんかっくんさせていた。

 退屈させてすまない。それに日頃の疲れが出たんだな。

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