第17話 薬草採取依頼 2

 ゴブリンという魔物、ザイガンさんによればこれほどピンからキリな魔物もいないという。

 例えばオレが森の中で討伐した二匹のゴブリンはろくに武器を持っていなかった。

 ところがバーストボアにまたがっている個体もいれば、こうして武器を扱う個体もいる。


 知能も決して低くない。

 人間並みに武器を扱うどころか、人間以上に使いこなす個体もいる。

 こいつらは五級の魔物に分類されているけど、世界には一級に分類されるゴブリンもいるとか。


 一級のゴブリンってどんな奴なんだろうな。

 ゴブリンキング、ゴブリンヒーロー、ゴブリンエンペラーなんて名前からして強そうだ。

 基本的に冒険者は自分の等級と同じ魔物の討伐依頼しか引き受けられない。

 オレ達は五級だから、今はこいつらが相応な相手だ。


「その武器、どこで手に入れたんだ?」

「ギャッ! ギャッ!」

「うるせぇってか。じゃあ、お手並み拝見といくかね。リコ、頼むぞ」


 ゴブリン達が持つ武器は剣と槍、斧だ。

 刃こぼれがひどくて切れ味は悪そうだけど殺傷力はバカにならないだろう。

 オレは剣を持つゴブリン達に挑み、リコは氷柱で残りのゴブリン達を迎え撃つ。


名前:ソードゴブリン

HP :46

MP :0

力 :30

きようさ:30

体力 :26

素早さ :28

魔力 :1

スキル:【薙ぎ払い】【二連斬り】


 これは驚いた。

 個体差があるといっても、オレが最初に倒したゴブリンよりかなり強い。

 他のゴブリンもゴブリンランサーやアックスゴブリンなど名称が違う。


 武器ごとにそれぞれ特化した成長を遂げているということか。

 剣のスキルだけで言えばたぶんオレより上かもしれない。

 なかなか鋭い動きだから瞬殺というわけにはいかなかった。


「ギャギャギャギャーーー!」

「うるせぇな! 静かに戦えよ!」


 数匹が相手じゃ【剣(見習い)】じゃなかなか決着がつかない強さか。

 それでもこっちには【風の回避】や【風の歩行】がある。

 足取りの軽さのおかげで、こいつの攻撃はまったくかすらない。


 ただし油断していると【薙ぎ払い】で剣を弾かれるし【二段斬り】がくる。

 今のオレには使えないものばかりだ。

 【剣(見習い)】では足りないのか?


「そこだッ!」

「ギャッ!」


 一匹目のゴブリンを仕留めると同時に二匹目の剣を弾く。

 剣を弾かれたゴブリンはよろめいて隙を見せた。

 ステータスはこっちのほうが上な分、力で押すこともできるというわけだ。

 続けてゴブリンを切り捨てて、三匹目のゴブリンに向かう。


 そうこうしているうちにリコがゴブリンを数匹ほど仕留めていた。

 ゴブリン達の頭や胴体に氷柱が刺さって倒れている。

 リコは一仕事を終えたといった様子を見せず、ただ死体を見下ろしていた。


 さすがとしか言いようがないな。

 オレの時にあの強さを発揮していれば、また違った結果になったものを。

 オレの予想だけど、リコは相手が人間だと腕が鈍る。


 根拠としてはレダの奴らが、初の対人戦のデータと言っていたからだ。

 おそらくオレが初の対人戦だったんだろう。

 いくら洗脳されていても心の底では人間と戦うのに抵抗があったんだろう。


 あいつらも詰めが甘かったというか。

 おかげで助かったけどさ。


「とあぁぁッ!」

「ギャーーーーーー!」


 オレはゴブリンの隙をついて腹を真横に斬り裂いた。

 最後の一匹が死んだのをしっかりと見届けてから、オレは一息つく。


「リコ、助かった。お前、やっぱり強いな」


 オレが褒めるとリコはそっぽを向いてしまった。

 何かまずいことでも言ったか?

 【心の耳】でも拾えないから、おそらくリコとしてはオレに伝える気はない。


「ぴぃ!」

「お前も無事で何よりだよ。予想はしてたけど、さすがに戦えないか」

「ぴぃー……」

「いや、責めてるわけじゃなくてな」


 マルルーはレダの奴らがほしがるほどの鳥だけど、少なくとも強さの意味では価値がないか。

 そうこうしているうちにゴブリン達の死体が霧状になって消えていく。

 残されたのは切れ味が悪そうな剣や槍、回復アイテムだった。


 これだけ倒せばいくつかドロップするものか?

 こういうドロップ品を売れば金になるとザイガンさんが言ってたな。

 ありがたく【アイテム圧縮術】でいただこう。


「しかし不思議なもんだな。このドロップとかいうの、オレ達にも適応されるのか? なぁ、リコ。リコ?」

(……褒め、褒めて……うれ、うれし……)


 リコが両手で頬を押さえて赤くなっていた。

 まさかさっきのオレの激励でこんなことになったのか?

 確かに境遇を考えれば、褒められることなんてなかっただろうな。

 エギーダ達はあくまでナンバー008の仕事として褒めていただけだ。

 耐性がないとオレなんかの言葉でこうなってしまうのか。


 オレ達は引き続き採取を続けることにした。

 【採取】スキルがどんなものか知っておくために、できるだけ狩場に長居したほうがいい。

 その甲斐があってか、【採取】スキルの意味がようやくわかった。


 さっきオレ達がいた場所はたまたま野草だけが生えていた。

 ところが中には野草や価値のない雑草が入り乱れているところがある。

 似た毒草もあるようで、【採取】スキルがあれば一瞬で見分けることができた。


 毒草に関しては買い取りの際に弾かれるらしいけど、あっちの手間を考えたら親切のはずだ。

 同じ冒険者でも毒草まじりの納品をする奴よりも、きっちり目的の野草を納品してくれるほうがありがたい。

 つまりオレは初心者ながら採取のプロとして目覚めたわけだ。

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