第16話 薬草採取依頼 1

 冒険者の仲間入りしたオレは思い切って情報収集をすることにした。

 訓練場に行けば確かに冒険者達が汗水垂らして訓練している。

 異様な雰囲気に少し気後れしたけど、誰もが暖かく迎えてくれた。

 中でも人当たりがいいのはこの道十八年の三級冒険者であるザイガンさんだ。

 年齢は三四歳で、十代の頃から冒険者をやっているという。


「ザイガンさん、三級ってすごいですね」

「そりゃおめぇ、俺は頭が悪くてろくに計算もできねぇからよ。こっちをがんばるしかないんだわ」

「優しくて助かりました。てっきりめっちゃ怒鳴られるかと思いましたから……」

「バッカ、おめぇそんなことして何になるってんだ。確かに職業柄ピリつくけど仕事では助け合うこともある。嫌われて得することなんてないんだ」


 続けてザイガンさんは、嫌われた奴が同業者にどうにかされることもあるなんて脅してくれた。

 恨まれて狩場で、なんてこともあるんだろうな。

 怖い、怖い。やっぱり仲良くするのが一番だ。


「お前ら、ずいぶん若そうだけどなんで冒険者をやってるんだ?」

「強くならないと困ることもありますからね。かといってどこかに所属してガッツリ働くってのも自由がなさそうだし……」

「そりゃそうだけどよ。オレと違ってまともな頭があるなら、しっかり勉強して金を稼いで護衛を雇うなんてこともできるんだぞ?」

「それも面白そうだけど……」


 確かに勉強して知識をつけて別の道に進むってのもありかもしれない。

 でもせっかくの異世界、スキル進化だ。

 勉強して知識をつけて、なんてのは別に前世でもできる。


「まだ若いんだし、じっくり考えればいいさ。それと敬語はやめろ。オレはそんな大した人間でもないし、背中がムズムズしちまう」

「わかりま……わかった。これでいいです、いいか?」

「ガッハッハッ! よくできたじゃねぇか! 何かわからないことがあったら遠慮なく質問してくれよ」

「わからないこと……」


 ここでオレは神世界レダについてそれとなく聞こうと決心した。

 元はといえば強くならなきゃと思わせてくれたのはあいつらだからな。


「ザイガンさん。神世界レダって知ってるか?」

「しんせかいレダ?」

「あぁ、黒い翼のシンボルがマークの恐ろしい連中なんだ」

「黒い翼ァ?」


 次の瞬間、ザイガンさんはプッと噴き出して周囲も同調した。


「ハハハハハッ! おい、ボウズ! どこでそれ聞いた?」

「おじさん達をからかうなよ! さすがに古いぜ!」

「昔、流行ったよな! 世界を裏から牛耳る巨大組織があるとかよ!」

「信じてた奴もいたけど、そんなのがいるならとっくに国にどうにかされてるだろ! 若いのによく古いネタを知ってるなぁ!」


 オレはついていけずに困惑した。

 どういうことだ? あいつらは世間では架空の存在として扱われている?

 じゃあ、あいつらは都市伝説みたいなもんに乗じたイカれ集団だったのか?

 この雰囲気であいつらに襲われたことやリコのことを話しても信じてもらえるとは思えない。


「でもありがとよ。新人なりに話のネタを出してくれたんだよな」

「あ、あぁ……面白かったならよかった」


 でもこの人達がいい人でよかったかもな。

 都市伝説みたいなネタは人によっては白けるだろう。

 気がかりなのはリコだ。様子を見ると瞼を下げて憂鬱な表情をしていた。


                * * *


 オレ達は野草の採取とゴブリン討伐の依頼を引き受けることにした。

 ザイガンさんによれば、初心者に手頃な依頼とのこと。

 この二つは独立した依頼だけど、野草を採取しつつ討伐をしたほうが効率がいい。

 他、ついでに行うことがあるとするならキラーウルフのドロップ品集めだ。


 こいつらがドロップする牙や爪は武器や工芸品なんかの素材になる。

 このドロップという概念、生物が蓄えている魔素から生み出されるものだと皆から聞いたな。

 そう考えると人間にも同じことが言えるんじゃないか?

 オレが死んだら何をドロップするんだろうか?

 深く考えるのはやめよう。


 一応、出発する前に武器屋や道具屋を覗いてみた。

 そこではオレが思っているより大量の回復アイテムが売られていて少し辟易してしまう。

 オレとしてはHP回復のアイテムなんて三種類くらいだと思ってたけど、なんと十種類もある。


 HP少量回復、HP少量とMP少量回復、HP中程度の回復、HP少量回復と毒の回復。

 どうもアイテムを作っているメーカーのようなものがあるらしくて、市場でも苛烈な争いが起こっているようだ。

 前世でもドラッグストアにはいろんなメーカー品が売られていたもんな。


 それは武器にも言えることで、値段も種類もピンからキリだ。

 ただ一番安いものでも手が出ないほど高い。

 色々な武器を使えばスキル進化しそうだけど、ここは我慢するしかなかった。


 結果、一番安い回復アイテムと毒治療のアイテムを少々買い込むことにした。

 【弱毒耐性】があるとはいえ、あくまで弱だからな。

 狩場で毒の治療ができない恐怖と焦りはRPGでよくわかっている。


 野草の採取場所は町から出て三時間ほどの場所にある山だ。

 オレが探索した森よりも緩やかな足場で、いかにも初心者用といった感じだ。

 だけど見かけた同業者らしき冒険者は割と息を切らしていたな。

 オレ達と同じ初心者かな?


 オレが悠々と歩いているのを見て、なんだあいつみたいな目をしていたな。

 オレとしてはリコが息一つ切らしていないのが不思議でしょうがない。

 そこでオレは思い切って聞いてみることにした。


「リコ、魔法で体力なんかも強化できるのか? お前、全然疲れてないよな」

(魔力で……強くした……)

「魔力すごいな」

(スキルのほうがすごい……魔力いらないから……)


 言われてみればその通りだ。

 しかも勝手に生えてくるんだから、そりゃチートだよ。

 【風の歩行】のおかげで疲れをほとんど感じない。


 野草は初心者用の依頼というだけあって、素人が見ただけで区別がつく。

 毒消しに使われる野草や食用の野草など、ちゃんと仕分けして【アイテム圧縮術】で収納していく。

 採取しておいて思うけど、こういうのは栽培できないものだろうか?

 気候とか色々な関係で難しいのかな?

 それができたら初心者が泣くからオレは助かってるけどな。


「ぴーぴぴぃー!」

「だいぶ集まったな。リコはどうだ?」

(わっさり……)

「ホントにわっさりだな!?」


 リコがいそいそと採ってマルルーがクチバシにくわえている。

 特にリコはいつの間にか両手で抱えるくらいわっさりと採っていた。

 意外にアクティブなんだな。


(たくさんお仕事しなきゃ……)


 もしかして皿洗いの仕事なんかでオレに迷惑をかけていると思っているのか?

 気負いすぎもよくないな。

 でもやる気があるのなら、そっとしておくべきだろう。


≪【採取】のスキルを習得しました≫


「お、きたきた」


 採取スキルをもってすれば、うん。採取ってなんだ?

 よくわからんけど、採取の腕が上がるんだろう。


 それから採取をすること二時間、平和なことばかりじゃない。

 ゴブリンが六匹ほどやってきて、どれもそれなりの武器を携帯している。

 野草を求めるのは人間だけじゃないということか。

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