第15話 冒険者登録

 激安宿を見つけて寝泊りしながら、オレは冒険者ギルドの登録料を稼ぐことができた。

 皿洗いだけじゃなくて依頼の中には配達というものがある。

 品物は様々だけど、よほど大きいものじゃなかったら【アイテム圧縮術】のおかげで効率よく運べた。


 アイテムポーチの中から急に大きくなったものを取り出したらかなり驚かれたけどな。

 あれこれ聞かれるのも面倒だから、渡すものを渡してすぐにとんずらだ。

 配達依頼の場合、さすがにリコにやらせるわけにいかないからオレに同伴してもらった。

 こっちのほうがオレと一緒にいられて安心だろう。

 オレなんかと一緒にいて嬉しいのかという疑問はあるが。


 昼間に働いて夜になると激安宿で一泊して一日の疲れを取る。

 激安宿だけあって食事なんか出ないし、部屋には薄汚れた布団しかない。

 寝心地は最悪と覚悟していた。

 獣の唸り声みたいないびきが聞こえてくるほど壁が薄いし布団も臭う。


 だけど【睡眠】スキルがある上に森の中で地べたで寝て暮らしてきたオレにとっては快適だった。

 このスキルがあれば、たとえ銃弾が飛び交う戦場でも寝られそうだな。

 実際に軍人はそんな環境でも寝られると聞いたことがある。


 問題は部屋の狭さだ。

 何せ二人と一匹で一部屋なものだから狭いのなんの。

 リコの吐息がかかる距離なものだから、これが一番焦った。


 お金をかけてでも二部屋で寝泊りしようと言ったんだけど、リコが駄々をこねるから仕方ない。

 一人で寝るのは耐えられないみたいだ。

 いざ寝るとなるとピタリとくっついてくるわ抱き着いてくるわ、本当にどうなるかと思った。


 そんな日々を送った甲斐があって、なんとか冒険者としてスタートできそうだ。

 オレ達は再びギルドへ足を運んで今度こそギルド登録手続きをすることにした。

 受付のお姉さんが笑顔で迎えてくれてホッとしている。

 さっきから冒険者達がいかにもライバルを見る視線を向けてきているからな。


「登録料をいただきました。では手続きに入ります」


 メガネをかけたいかにも優等生といった女性が何も書かれていない白いカードを差し出す。

 説明によるとこのカードは身分証明書みたいなもので、これに冒険者の情報が書かれる。

 オレが指をピタリと当てて魔力を流し込めばいいらしい。


 魔力にはその人間の情報が含まれているそうだ。

 DNAみたいなものだな。

 だけどオレはそんなやり方を知らない。

 それを告げると少し驚かれてしまう。


 どうもこれはこの世界で生きる人間なら誰でもできるものみたいだな。

 それでも受付の女性はカードに指を当ててひたすら念じてくれたらいいと言ってくれた。

 魔力は微弱ながらどんな人間にも宿っているみたいで、それをギルドカードが感知してくれるらしい。

 数十秒ほどかけてようやくオレのカードに情報が刻まれた。


 これには名前、等級、受注している依頼などが表示される。

 依頼をこなした時はギルドで更新手続きをすればいい。

 この時、虚偽報告をすれば厳しく罰せられると脅された。

 最悪の場合、監獄送りにされることもあるとか。


 冒険者ギルドはなんと国営だと聞いて驚く。

 つまり冒険者は立派な国家資格だ。

 そんなものを試験もなしに与えていいのかと聞くと、三級以上から昇級試験があるという。

 重宝されるのは三級以上とのことで、四級以下は適当にどうぞって感じなんだろう。

 

「そちらのお嬢さんもギルドカードをお作りになられるんですか?」

「あぁ、リコ。いいか?」


 リコはこくりと頷いてギルドカードに指を当てた。

 オレと違って一瞬でギルドカードに情報が刻まれて、これが素質の違いかと納得する。

 そして書かれた名前はリコだ。


「あなた、すごいですね! 魔道士ですか?」


 リコは答えない。どうもオレ以外とは会話が難しいらしい。

 オレがフォローしてやると、受付嬢は疑問をもたずにスルーしてくれた。


 ギルドカードには本人が認知している名前が刻まれるらしいな。

 ということはリコはリコという名前をきちんと受け入れてくれてるってことだ。

 リコはギルドカードを大事そうに両手で持って胸元に当てた。


「嬉しいのか?」

(リコ……リコ……わたしの、名前……)


 リコは顔を赤くして幸せな世界に浸っている。

 自分というものが証明されて嬉しいのかもしれない。

 名前でそんなに喜んでもらえるなら光栄だ。


 これでオレ達は晴れて五級冒険者だ。

 五級だと引き受けられる依頼が限られている。

 定番らしいゴブリン討伐を初めとして、畑を荒らすキラーラビット討伐が多い。

 あいつら肉だけじゃなくて畑の作物も食うのかよ。


 あとは薬草採取だな。

 料理や治療に使う薬草の多くは栽培しているけど、中には野生でしか採れないものもある。

 当然、そんな場所には魔物がいるからオレ達冒険者の出番だ。


「不安でしたら冒険者ギルドには訓練場があります。先輩冒険者が利用されているので、うまく仲良くなれば色々と教えてもらえるかもしれませんよ」

「それもいいかもしれないな」


 戦いだけじゃなくてほしい情報はいくらでもある。

 あの神世界レダとかいう奴らのこともそうだ。

 ここにいる冒険者なら何か知っているかな?


 ひとまず冒険者の平均的な強さはどんなもんだろう?

 せっかくだから【観察】してみよう。

 あそこのいかつそうな男はどうだ?


名前:ドーマ

HP :83

MP :21

力   :40

きようさ:27

体力 :54

素早さ :24

魔力 :13

スキル:【斧Lv4】【ちからためLv1】


 あの人が何級かわからないが、思ったほどでもないな?

 それに【斧Lv4】ってどういうことだ?

 オレの場合はチャンバラだの見習いだの、微妙に自尊心が傷つくスキル名なのに。


 オレが見つめているものだから、男が視線に気づいてしまった。

 ギロリと睨まれて目をそらしてしまう。

 新人がジロジロと見ていたら、そりゃ気分はよくないよな。

 さて、そんなことよりボチボチ依頼を引き受けて稼ぎますか。 

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