第14話 町に着いたけど無一文だった

「や、やっと森を抜けられたぁ!」


 森を歩いていて段々と開けた場所に出てきた時は本当に期待した。

 お、これ森の外に出られるんじゃないかと思わせておいて何度騙されてきたことか。

 森の外は木が点々とあるだけの大草原で、遠くに街道らしきものが見える。


 街道をゆったりと進む馬車の存在も相まって、なんともファンタジーな光景だ。

 オレは思わず叫びたい衝動に駆られた。

 いや、我慢する必要なんてないな。


「うおおぉーーーーーーーーーーーーっ!」

「ぴぃぴっぴーーーーーー!」


 前世を含めてここまで大声を出したのはいつ以来だろうか。

 ひとしきり叫んだところで、オレのリコが静かに立っているのに気づいた。

 どうやらこの場で騒がしいのはオレ一人のようだ。いや、もう一匹いるか。


「さ、いくか」

「ぴぃっ!」


 リコは黙々とついてきて、マルルーはパタパタと楽しそうに飛んでいる。

 街道に沿って歩けば町に着くはずだ。

 あの馬車についていけば問題ないだろう。


 というわけで歩くこと二時間、辿りついたのはアガルタという名前の町だった。

 町の入り口にはそこそこの列ができていて、門番が荷物チェックを行っている。

 もしかしたら身分証明書みたいなものが必要か?


 という心配は杞憂に終わった。

 せいぜい町に来た目的を質問されて、圧縮されたアイテムを見られて驚かれたくらいだ。

 全部手作りなんですと説明したら、ほぉの一言で済まされてすんなりと通してもらえた。

 これでいいのかなと思わなくもないが、こういうのは治安によって変わるんだろう。

 オレとしてはこの謎の鳥について言及するべきだと思うんだが。


 その謎も町に入って納得した。

 町にいる冒険者らしき人達の中にはペットらしきものを連れている人がいる。

 狼の魔物やスライムと様々だけど、もちろん人を襲う様子はない。

 あれに比べたらこのマルルーなんて本当にペットだよ。


 やっと人がごった返す町に着いたことで安堵した。

 森にいた時は魔物とカルト集団しか縁がなかったからな。

 さて、町についてまずやることは宿の確保だ。


「久しぶりにベッドで寝られるぞー!」

「ぴいぃーー!」


 そう意気込んだ時、とんでもない事実に気づいてしまった。

 金がない。そりゃそうだ。

 今まで森の中でサバイバル生活を送っていたんだからな。


 やっばいな。どうする?

 いや、稼ぐしかないんだけどさ。

 この世界で仕事を見つける方法なんてさっぱりわからないぞ。


 こうなったら恥を忍んで情報収集するしかない。

 オレは道行く人に色々と聞いて回った。

 その結果、仕事を斡旋しているのは冒険者ギルドだとわかる。


 冒険者ギルドでは冒険者用の探索や討伐依頼の他、町の色々な仕事を見つけることができる。

 ただし冒険者になるには当然ながら登録料が必要になるわけだ。

 それでも所持金ゼロのオレ達は冒険者ギルドに向かった。


 一応、生計を立てる手段としては冒険者がいいのかな。

 命のやり取りは危険な気もするけど、スキル進化を考えればリスクは必要だ。

 普通の生活をしていればそれなりのスキル進化をすればいいけど、その保証はない。

 それにレダとかいうのがいるのなら、強くならない手はないからな。


 冒険者ギルドの建物に入ると一瞬だけ冒険者達に睨まれた気がした。

 同業者に対するライバル心ってやつか?

 命のやり取りをするんだから、あのくらいピリついてないとな。


 気にせず依頼や仕事が張り出されている掲示板を見ると、あるわあるわ仕事の山。

 一般の人間が引き受けられる仕事は側溝掃除、庭の雑草刈り、飲食店の皿洗いなど。

 報酬が高いものはそれなりのスキルが求められるらしい。


 例えば調理の場合、【料理】スキルは必須だ。

 オレにはそんなものがないから、ひとまず皿洗いを引き受けることにした。


「リコ、ほんの四時間くらいだけどおとなしく待っていてくれ」

(……やる)

「え? 皿洗い、やるのか?」

(やる)


 リコがオレの服をつまんでアピールしている。

 すこぶる不安だけど、本人の意思を尊重したい。

 さすがにマルルーは入れないからお留守番だ。


「おう! 繁忙期になったら死ぬほど忙しいからな!」

「はい!」


 ひとまず威勢よく返事をしておこう。

 それからいざ始まると本当に死ぬほど忙しかった。

 この時ほど千手観音みたいに手が複数ほしいと思ったことはない。


 何が一番大変だったかって、リコが皿を割ってしまったことだ。

 皿代はしっかり報酬から天引きされるらしいので、その日の報酬は本来の半額程度だ。

 オレはオーナーに何度も頭を下げた。


 仕事が終わって日が沈みかけた頃、オレはリコを横目で見た。

 さすがに気にしたのか、リコが俯いて涙目になる。

 オレとしてはてっきり外で待っていると思っていたのに、なんで自分もやると主張したんだ?


「リコ、外で待っていてもよかったんだぞ?」

(やだ……)

「どうしてもやりたかったのか?」

(離れないで……)


 そこでオレはハッとなった。

 リコはオレがいなくなることでまた一人になってしまう。

 ついこの前まであのクソみたいな連中に従えられていたんだ。


 仕事をしたいというより、オレから離れたくなかっただけだ。

 そうなればリコだけ外で待ってもらうわけにいかないな。

 ただでさえ世間知らずなんだから、何が起こるかわからない。 


「そうか、でも仕事の出来は気にするな。最初は誰だってあんなものさ」

「ふぐっ……うっ、うっ……」


 女の子にこんなにも泣かれてしまう日がくるとは思わなかったな。

 どうしていいのかわからず、オレはあらゆる言葉を尽くして励ました。

 いいんだよ。オレだって戦いに関してはまだまだクソザコだからな。

 皿洗いだろうが、少しずつこれから進化していけばいいさ。

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