第12話 遺跡の奥に眠るもの

「え、なに?」


 オレが寝っ転がっていると、女の子が近くに正座してきた。

 何も言わずに見下ろされて、オレはたまらず起き上がる。

 必死で戦っていたけどこの子とは敵対していたんだ。


 この子はブラストベアーを倒しているし、ゴーレムにも同じ強烈な魔法を浴びせている。

 ハッキリ言ってあのポテンシャルで襲いかかってきたらオレなんて瞬殺だ。

 やや警戒しつつオレは女の子との距離を空けている。


「大変だったな。君はあいつらにとってどういう存在だ?」


 当然のように女の子は答えない。

 少し幼い顔立ちだけど背丈からしてオレとそう年齢は変わらないように見える。

 女の子はただオレをジッと見つめてくるのみだ。


 いや、困ったもんだよ。

 初めて人と接触できたと思ったらあの訳の分からんカルト集団、そしてこの子だ。

 しかもコミュニケーション能力に難ありときた。

 このまま放置するわけにもいかないし本当に困ったな。


「せっかくだし遺跡の中を見てみようと思う。来るか?」


 女の子はふらふらとついてくる。

 改めて見ると眠そうな目で、本当に何を考えているのかわからない。

 このまま背中を見せていて大丈夫なんだろうか?

 いきなり氷柱で貫かれたりしないか?

 怖くなってきたからオレは女の子と並んで歩くことにした。


 少し奥まったところまで進むと、金属製の箱が安置されている。

 箱には見たこともない文字が書かれていて意味がわからない。

 これにあいつらが言っていた何か眠っているのか?

 ろくなものじゃない気もするが、オレは思い切って開けてみた。

 その瞬間、眩い光が箱から放たれる。


「ぴぃっ!」

「え?」


 目を開けるとそこには何もいない。

 キョロキョロと見渡すと頭の上から何かが聞こえてくるのに気づいた。

 おそるおそる両手で頭の上をさぐると丸くてもふっとした感触がある。


「うわっ! なんだこりゃ!」

「ぴぃっ! ぴぃっ!」


 丸い何かがパタパタと飛び周っている。

 丸い体に小さい羽にクチバシ、もふっとした羽毛。

 実にヘンテコな鳥だ。まさかあのゴーレムが守っていたものか?


「お前、何なの?」

「ぴぃっ!」

「うん、わからん」

「ぴぃっぴぃっ!」


 変なのが出てきちゃったな。

 あのカルト集団ども、この鳥を必死になって手に入れようとしたのか?

 いや、もしかしたらあいつらの見当違いって可能性もある。

 こいつに何かがあるのかもしれないけど、今のところただの変な鳥だ。


「で、オレはどうすればいいんだ?」

「ぴぃぃっ!」


 念のため辺りを調べてみたけど何も見つからない。

 これ以上ここにいてもしょうがないな。

 オレが遺跡を出ようと歩き始めると当然のように鳥も飛んでついてくる。

 え、これってオレが飼う流れ?


「お前、オレについてくるの?」

「ぴぃっ!」


 どうもそうらしい。

 これで女の子と鳥がついてくるようになった。

 あの強いゴーレムがこの鳥を守っていたとは信じられないな。


 別に金目のものを期待したわけじゃないけどさ。

 こうもあまりに何なのかがわからないと、どう反応していいのかわからない。

 なんだか拍子抜けしてオレは遺跡を出た。


 そこには動かなくなったゴーレムがいる。

 こいつの装甲、硬かったな。こういうのはなんかうまい具合に有効活用できないものかね。

 オレは肩に昇ったりして調べてみた。


 結果、オレごときじゃどうにもならんとすぐに結論が出る。

 さすがのスキル進化もこれはお手上げだろう。

 オレは大きくあくびをすると、前方に人影が立っているのに気づいた。


「ハァ、ハァ……き、貴様……!」

「ゲッ! エギーダ! 生きてたのかよ!?」


 エギーダはボロボロになりながらも、足を引きずるようにして歩いている。

 今にも倒れそうなほど傷ついているけど、あいつの攻撃をあれだけくらって生きていたとか人間じゃないな。

 エギーダはオレの頭上を飛んでいる鳥を見て目を丸くした。


「そ、それはまさか遺跡の中で見つけたのか?」

「だったら何だよ」

「フ、フハハ! フハハハハ! そうか! 伝説とは違うが、それは間違いない! 小僧! そいつをこちらによこせ!」

「それが人にものを頼む態度かよ。そんなもんよりまずは自分の心配をしろ。立っているのもやっとじゃないか」


 エギータは生きているのが不思議なほどの重体だ。

 顔の皮が剥がれ落ちて、片方の足しか使えていない。

 少しつっついたら倒れそうなほど弱っている。


 こいつ、こんな鳥がほしいのか?

 ペット好きには見えないしエギーダが何かを確信するほどの存在ってことか。


「立場を理解しているのか? 貴様に選択権などない……! ナンバー008、最後のチャンスをくれてやる。そこにいる小僧を殺せ」


 は? こいつ、マジでなに言ってんの?

 散々暴行を加えておいて、まだ自分の言うことを聞くとでも?

 いや、わからんわ。もしかしたら聞くかもしれないわ。自信ないわ。

 オレはちらりと女の子を見た。


「う、うっ、ううぅ……」

「おい、どうした?」


 女の子は頭を抱えて苦しんでいる。

 何かわからないが、エギーダの命令には従うように教育されたのか?

 そうだとしたらここまで苦しむほど従いたくないってことでいいのか?


「ナンバー008を初めとした魔法実験体は我々レダ……特に神人階級の命令には絶対に従う。幼いころからそう作り上げてきたのだからな」

「作り上げた? こいつは人間じゃないのか?」

「類まれなる魔力を持つそいつを魔法のみに特化した真なる人間……魔人として作り変えた。今のところ我々神人には劣るものの、いずれは人としての完成形ともいうべき存在となる」

「要するにそのためにこの子はお前らの犠牲になったんだな?」

「違うッ! これは人類の先駆けだ! 我々レダは先駆者となったに過ぎん! フハッ! フハハハハハァーーー! ハハハハハッ!」


 エギーダは楽しそうに笑う。

 血が噴き出ているってのに何が面白いんだ?

 まるで自分の死が怖くないかのようだ。


 カルトが極まりすぎて訳が分からないけど、涙を流して痛がるこの子の姿にウソはない。

 人様をいじくり回して苦しめてバカ笑いするエギーダとこの女の子、どっちの肩を持つかなんて考えるまでもないわな。

 オレは剣を抜いてエギーダに向けた。


「なに? 貴様、この私とやろうと? 手負いならばどうとでもなると思ったか! ナンバー008! 最後のチャンスだぞッ!」

「なんでその子にやらせようとするんだよ。お前、実はMPなんてほとんど残ってないんじゃないか?」

「そ、そんなことはないッ!」


 オレは女の子に寄り添った。

 女の子は涙目でオレを見る。


「君さえよかったらオレとくるか? あのアホみたいなのは虫の息だ」

(たす、けて……!)


 答えは出たな。

 オレはエギーダに剣を突き刺した。


「が、はッ……! 貴様、貴様ァ……!」

「オレみたいなのに止めを刺されちゃったな」

「貴様、ごとき、にッ……う、うごっ……」

「うわっ! きたねぇっ!」


 エギーダが吐いた血が危うくかかるところだった。

 その場にうつ伏せにどしゃりと倒れたエギーダはそれっきり動かなくなる。

 少し剣で突っついてみたけど、どうやら死んだみたいだ。


「あぁ、やっちまったな。だけど遅かれ早かれこういう手段を取らなきゃいけないよなぁ」


 エギーダの死体の前でそうぼやいたところで誰も答えてくれない。

 ここにいるのはオレの頭上を飛び回る謎の鳥と女の子のみだ。

 帰ってくるのはぴぃという鳴き声と無言だった。

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