第11話 VS ルインゴーレム

「な、なんだ! 扉が!」


 遺跡の石の扉が開いて出てきたのは、人型兵器と形容できる何かだ。

 型や胸に金属製の装甲が装着されていて頭には黒い空洞に赤い瞳が光っている。

 ロボットにも見えるけど、どちらかというと生物との融合ってイメージだ。

 まさか遺跡を守護するゴーレムか?

 そいつがのっそりと出てきて赤い瞳をぎょろりと動かした。


名前:ルインゴーレム

HP :???

MP :???

力  :???

きようさ:???

体力 :???

素早さ :???

魔力 :???

スキル:【パンチ】【レーザー】


「コレヨリ侵入者ヲ迎撃スル」


 ゴーレムが勢いよく向かってきて拳を地面にめり込ませた。

 石造りの地面がメキメキと音を立てて波立つようにして歪む。

 凄まじい破壊力にオレは呆気に取られてしまう。


 ゴーレムのターゲットはオレ達全員らしい。

 ステータスからして戦っていい相手じゃないし、そもそもオレは遺跡に用なんてない。

 とっとと逃げる算段を立てて、この場を離れようとした。


(たす、けて……)


 女の子の心の声が聞こえてきた。

 倒れている女の子を見ると、うっすらと目を開ける。


「おい、大丈夫か?」


 女の子は何も答えない。

 どうしたものかと考えていると、エギータ達が魔法で応戦を開始したみたいだ。


「神が残した遺産とでもいうのか? だがそれを手にする資格があるのは我々レダだッ!」

「神なる世界の下に!」

「神なる世界の下に!」

「神なる世界の下に!」


 エギーダ達の魔法の総攻撃は凄まじく、ゴーレムごと辺りを吹き飛ばすとさえ思えた。

 爆発に次ぐ爆発でさすがのゴーレムも少しずつ装甲が剥がれていく。

 このままいけば押し切ってしまうんじゃないか?


 そう思ったのも束の間だ。

 ゴーレムは攻撃を受けながら、エギーダ達に向けて手から何か放つ。

 放たれた光はエギーダ以外の男達を一瞬で消し去ってしまった。ウッソだろ?


「な、なん、なん、何だ、と……」

「愚カナ俗物。何人タリトモ神域ニ近ヅクコトハ、マカリ通ラン」 


 煽り機能も兼ね揃えているゴーレムにさすがのエギーダもたじたじだ。

 そのエギーダはかろうじてレーザーを受けつつも、すでに体中が焼かれてかなりダメージを受けている。

 オレはオレでまた女の子に声をかけた。


「おい、オレの声がわかるか?」


 その直後、ゴーレムの影がオレ達に覆いかぶさる。

 逃げ切れるとは思えないけどオレは女の子を抱えたままこの場を離れた。

 ゴーレムの拳がオレ達がいたところを打つ。

 破片が飛んできて、かろうじてオレの横を通過した。


「ふぅ……危なかった……」

(たす、けて、く、れ、た……?)


 エギーダのほうを見ると見事に拳で森の中までぶっ飛ばされていた。

 ありゃいよいよもってやばいな。

 いくら女の子でも、この子を担いでこの場から逃げ切れるものだろうか?

 助ける義理なんてないはずなんだが、放っておけなくなってしまった。


「愚カナ俗物。何人タリトモ神域ニ近ヅクコトハ、マカリ通ラン」

「セ、セリフのパターン少ないな。こういうボスってつまんねぇんだよなぁ……」


 これがRPGならどんなによかっただろうな。

 今は死ねば人生ごとゲームオーバー、絶体絶命だ。


「守護者なら大人しく見逃してくれないか? 遺跡にはまったく興味ない」

「侵入者ハ迎撃スル」

「もう少しセリフにバリエーションをもたせてくれ。例えば『ナラバ立チ去ルガイイ』とかさ」

「愚カナ俗物。何人タリトモ神域ニ近ヅクコトハ、マカリ通ラン」


 ダメだ、これ。なんで喋る機能つけたんだよってくらい同じことしか言わん。

 かといって無言で襲いかかってくるのも怖いけどさ。

 仕方ない。せめてオレにヘイトを向けさせよう。


「来い! これが相手だ!」


 ヘイトという概念があるのかわからないが、運よくゴーレムがオレを見た。

 そのゴーレムが拳をこちらに向けてくる。やばっ!


「あっぶねぇ!」


 【風の回避】でかわせたのは幸運か?

 あのレーザーさえ撃たせなければ何とかなるか?

 落ち着け。オレはこんなところで死ぬわけにはいかない。


 深呼吸をしたところで【風の歩行】でゴーレムに近づいた。

 闇雲に走るよりこっちのほうがいざという時に動ける。

 再びゴーレムの拳がオレに放たれるが、これも何とか回避。


 こいつ、さっきから【パンチ】しかしてこないな?

 もしかして【レーザー】は遠距離と認識したのみか?

 あのエギーダ達は少し距離が離れていたもんな。


 だとしたら神様も案外甘いな。

 いや、神様ってもしかしてあの女神のことじゃないだろうな?


「おりゃあぁッ!」


 オレはゴーレムに刃を入れてみたが硬すぎる。

 この装甲をぶち抜くには威力が足りないな。

 そうなれば関節部分を狙うか?


 オレはゴーレムを今一度、よく見た。

 【観察】で相手のステータスだけじゃなく、動きを見極める。

 絶対に距離を取らずになるべく張り付くようにして戦った。


 こいつ、動き自体はそんなに複雑じゃない。

 とはいえ【風の回避】【風の歩行】がなかったら終わっていたけどな。

 なんとかふところに潜り込んで足の関節部分を斬りつけることに成功したが――


「やっぱり硬い!」


 装甲部分よりはマシだけど、オレの力とこの剣じゃあまりダメージにならない。

 エギーダ達の攻撃でダメージが蓄積しているとはいえ、このままじゃ勝ち目がなさそうだ。

 どうする? さすがにこれ以上の策なんか思いつかないぞ。

 ゴーレムが拳を振り上げた時、オレの剣に何かがかかった。


「こ、これは?」


 オレの剣が氷で覆われて鋭い刃になっている。

 見ると女の子が苦しそうに立ち上がっていた。


「お前……」


 更に女の子はゴーレムに両手を向けて、ブラストベアーを一撃で倒したあの魔法を放つ。

 ゴーレムに大寒波が襲いかかったかのようだ。

 それでもゴーレムはギチギチと音を立てて、氷を割りながら可動に成功する。

 クソ化け物じゃん。なんなの、こいつ。


「この氷の剣、少し重いけど威力は各段に上がったな。よし……」


 オレは再びゴーレムの足の関節を斬る。

 ズシリとした重い手応えが、関節部分により食い込んでいると教えてくれた。

 ゴーレムは片足の力が入らなくなったかのように片膝をつく。


 オレは踏ん張って、低くなった頭に向けて氷の剣で斬り上げた。

 首の部分に直撃した剣が嫌な金属音を出す。

 さすがに切断とまではいかなかったけど、首の部分の中身が剥き出しになっていた。


「侵入者ハ……迎撃、スル……」


 また【パンチ】かと思った時だ。

 ゴーレムがオレに向けてきたのは手の平、即ちこれは【レーザー】。

 聞いてないぞ!? もしかしてHPが減ったら行動パターンが変わるタイプか!


 確実に回避が間に合わない。

 光がオレの視界を満たした時、氷の壁が下からせり上がる。

 その後でとてつもない爆発と共に氷の壁が砕けた。


 爆風の吹っ飛ばされたかのごとくオレは転がった。

 全身を打ち付けてなかなか起き上がれず、なんとか剣を握った。

 ゴーレムを見ると片手からバチバチが鳴っている。


 オレの攻撃が聞いて不具合でも起きたか?

 何にせよ、これはチャンスだ。

 痛みを堪えながらもオレはゴーレムに走って接近、今度こそ首の部分に氷の刃を突き刺した。


「活動、限界……停止……」


 ゴーレムがかろうじてまた片手を向けてくるけど、そこで完全に動きを止めた。

 膝をついたまま動かずにいる。

 オレは少しの間だけ見張っていたが、やがて疲れが限界に達したみたいだ。

 その場で大の字になって倒れてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る