第10話 VS ナンバー008
「一応、初の対人戦のデータだ。大したことのない相手で参考になるとは思えんが記録しておけ」
「ハッ!」
エギーダが部下に指示を出している中、オレはさっそく攻撃を受けていた。
無数の氷柱が弾丸のように放たれて、【風の回避】をもってしても体にかすられてしまう。
一本ずつ叩き落しても息継ぎの間もなく次々と放たれてきた。
「おぉ! さすがナンバー008!」
「対人戦でも動けている! マスター卿もご満足されるだろう!」
エギーダの手下達が好き勝手なことをほざいている。
オレは受けるだけでまったく反撃に出られずにいた。
女の子は無表情で氷柱を放ち続けている。
魔法ってやつはたぶんMPを消費するんだろ?
いつか尽きるんじゃないか?
でもその前にオレのほうが倒れる可能性があるな。
「くっ……! いってぇ!」
「ターゲット損傷。左腕の稼働率82%まで低下」
すげぇ冷静に見抜いてきやがる。
そういうのも魔法のおかげか? 妬けるね。
一方、オレは何に進化するかわからないスキル進化だ。
こんな中でもオレは【観察】を止めなかった。
名前:ナンバー008
HP :???
MP :???
力 :12
きようさ:25
体力 :9
素早さ :13
魔力 :???
スキル:【魔法障壁】【???】
(ん? こいつ、エギーダ達と比べてステータスは大したことないな?)
データがどうとか言っていたし、もしかしたら不完全な状態なんじゃないか?
さっきから放ち続ける氷柱も、ずっと受け続けていたらさすがに見えてくるものがある。
【観察】のおかげで少しずつ回避の要領がよくなってきた。
「ターゲット、精度向上」
「ナンバー008! 何をやっている! 一気に片付けろ!」
エギーダがいらついて檄を飛ばしている。
あのブラストベアーを倒した時の魔法は使わないのか?
あれを使われたらひとたまりもないんだがな。
なぜ本気を出さない?
「ナンバー008ッ! これは命令だ!」
「う……」
女の子の攻撃の手がわずかに緩んだ。
オレはその隙に一気に距離を詰める。
そして首に剣を突きつけると、ナンバー008の動きが止まった。
「ハァ、ハァ……これでどうだ?」
「ゼロ距離……反撃……不可」
オレは息を切らしながらも女の子から刃を外さない。
これはオレの勝ちってことでいいのか?
エギーダを見ると耳まで赤くなっていて、つかつかとこっちにやってくる。
「ナンバー008、なぜ本気を出さない!」
「排除、します」
「聞き飽きたんだよッ!」
エギーダが女の子の頬を叩くと、その軽い体が吹っ飛んで倒れてしまう。
エギーダは何かが切れたように女の子に蹴りを入れまくった。
「貴様を作り上げるのにどれだけの金と時間と実験体を費やしたと思っている! えぇ!?」
「排除、しま、す……」
「これではマスター卿に申し訳が立たんだろうが! 神なる世界のためにッ! あのお方は日々頭を悩ませておられるのだッ!」
「はい、じょ、しま、す」
大の大人が女の子を意味不明に痛めつける光景にオレは疑問をもった。
こいつらがどういう組織であの女の子が何なのかはわからない。
オレの中で何かが納得がいってないのがわかる。
オレが飛び出してあのエギーダを止めるべきなんだろう。
だけどオレが止めに入ったところであのエギーダに殺される。
仮に魔法抜きだったとしても勝ち目はない。
無力というのがこれほどむず痒いとは思わなかった。
オレは拳を握りしめたまま体が動く。
「この役立たずが……ん?」
「おい、その辺にしておけよ」
「なんだ、小僧。まさかこの私に意見をするとでも?」
「キレる前に原因を考えろよ。何かしらあるはずだろ」
「原因だと? 下らん、こいつは欠陥だった。ただそれだけの話だ」
呆れたもんだ。
よくろくに分析もしないで努力を放棄できたもんだな。
オレも人のことは言えないけど、好きな女の子に振られたのもすべては自分のせいだと思っている。
オレに人としての魅力があれば、あんな風にからかわれなかったはずだ。
オレはかがんで倒れたままの女の子を見た。
こんなことになっても女の子は何も感じてないかのように表情が固定されている。
「お前も一言くらい何か言えよ。何を考えているんだ?」
≪【地獄耳】から【心の耳】に進化しました≫
(助、けて……)
「えッ……!」
オレの聞き間違いか?
スキル進化したと共に声が聞こえたぞ。
「おい、何をしている。部外者の貴様がそれを庇って何になる」
エギーダ達には聞こえていないみたいだ。
これはこの女の子の声か?
だとしたらこの子にも人の心がある。
それが何らかの理由で表せていないんだ。
「フン、欠陥人間は同じく欠陥品に情が移るものだな。神人である我々には想像もつかん」
「か、神ってお前……」
「お前が勝ったボルンは虫階級……我々の中では最下層に位置する。救済に値する価値もない者だが、マスター卿はそのような者でさえ救おうとお考えなのだ」
「虫階級だのマスター卿だのわけわかんねぇんだよ。お前、遠慮なく固有名詞を出しまくるRPGにいそうだな」
オレも大概頭に血が昇ってしまった。
こいつを挑発したところで事態は変わらんというのに。
RPGを引き合いに出してしまったけど、今のオレは負けバトル確定の強敵にイキっているキャラAだ。
しかもこっちはゲームと違って負けて全滅すれば終わり、コンテニューなんかない。
そんなオレに対して案の定、エギーダが片手に炎の塊を浮かせた。
「RPG? よくわからんが侮蔑の言葉として受け取ろう。劣等種は種の保存にすら無頓着なのだな。ならばこの場で散るがいい」
その炎がオレに放たれようとした時、地面が大きく揺れた。
奥の遺跡の扉が開いて、何かが出てくる。
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