第8話 氷の少女
森の中で戦い続けてどのくらい経ったかな。
もう途中から時間経過を意識するのも面倒になったけど、たぶん一ヵ月くらいは経ってる。
さすがにここまでくると魔物との戦いも手慣れてきた。
ゴブリン達が度々襲ってくるが、真正面からの戦いならまったく怖くない。
だけどあいつらは寝ている時もお構いなしに襲撃してくるから困ったもんだ。
ゴブリンといえばこの前、初めてライダーゴブリンとまともに戦ったな。
バーストボアよりも動きに緩急があって、何より【振り回す】が厄介だった。
あいつら、どこで調達したのか知らないが剣だの槍だの色々な武器を持っている。
中にはオレよりうまく扱えるんじゃないかと思った個体もいたほどだ。
名前 :天上 シンマ
年齢 :16
性別 :男
HP :85
MP :18
力 :36
きようさ:25
体力 :31
素早さ :25
魔力 :14
スキル:【スキル進化】【呼吸】【地獄耳】【観察】【風の回避】【風の歩行】【食事】【パンチ】【キック】
【自然治癒】【睡眠】【剣(見習い)】【アイテム圧縮術】【解体】【木器作成】【弱毒耐性】【弱水耐性】
スキル進化といえば【歩行】が【風の歩行】になった。
なんじゃそりゃって感じのスキルだけど、足取りが驚くほど軽やかになる。
森の中を歩いてもあまり疲れないし、探索範囲がグッと広がった。
何より体力の消耗を抑えられるのがいい。
このステータスの体力、どうも持続力とも言い換えられると気づいた。
最近になってようやくステータスの意味を考えられるようになったのも余裕が出てきた証拠だ。
こんなの町の人間なら誰かしら知っていそうだけどな。
それともまさかこの世界は文明がないんじゃないかと思ったこともある。
人の文明があるなんてオレの勝手な妄想に過ぎない。
オレが最初に出会った男も実は森の原住民か何かの可能性は?
という妄想が広がってしまうのも余裕が出てきた弊害かもしれない。
まぁそれはそれでいいけどな。
余計な人間関係はうんざりだし、今の状況なら女の子に振られることもない。
オレはオレの成長をじっくりと楽しもう。
そう呑気に考えていたのもつい昨日までだ。
オレは目の前の光景が信じられずにいた。
「な、なんだよこれ」
まず木々がなぎ倒されて半分以上が凍り付いている。
明らかにオレが知ってる自然災害じゃない。
というのも、その木々は円形に倒れていて中心には巨大な猪の死体があるからだ。
こいつは見た目こそバーストボアだけどオレが討伐したものより遥かに大きい。
死体を【観察】してみたけどキラーラビットの時とは違って何も見えなかった。
死後から時間が経っているせいか、死体を見ただけじゃダメなのかはわからない。
ただ一つ明らかなのは、この森にはとんでもない何かがいる。
それも今のオレじゃまったく敵わない化け物だ。
森の生活にようやく慣れてきたオレには刺激が強すぎる。
食物連鎖というものを改めて思い知らされた。
キラーラビットやゴブリンを討伐できる程度でいい気になるなよと自然界が教えてくれたかのようだ。
なまじ成長するとわかることがある。
オレは寒気を感じて二の腕をさすった。
こんなことができる化け物が森にいるとわかった以上、ちんたら探索なんてしていられない。
一刻も早く森を出ないと。
この場を離れたオレは逃げるように反対方向へと歩く。
どうか化け物に見つかりませんように、そう願いながら。
それからどのくらい歩いただろうか。
時間的には午後を過ぎて夕暮れに差し掛かろうという時だ。
精神的な疲れからなのか、オレは遠くにいる巨大な熊の化け物に気づかなかった。
名前:ブラストベア
HP :144
MP :0
力 :72
きようさ:50
体力 :85
素早さ :44
魔力 :1
スキル:【爪】【突進】【ブラストナックル】【剛力】【底力】【暴れまわる】【気合いため】【雄叫び】
(……オイオイ! なんでぼーっとしてんだ、オレ!)
オレは中腰になりながらもすぐに逃げようとした。
訳の分からんスキルが勢ぞろいだし、どう見ても勝てる相手じゃない。
オレは見つからないように息を殺してそろりと後退した。
その瞬間、ブラストベアがぴくりと何かを見る。
見つかったかと思ったが、どうも視線の先に何かいるようだ。
「グオォォォ……!」
唸り声だけでも震え上がるほど恐ろしい。
オレは生唾を飲む音さえ抑えながら冷静に努めようとした。
ブラストベアーが駆けて何かに襲いかかる。
だけどブラストベアーが真正面から何かを受けた。
氷の波というべきか、それがブラストベアーを飲み込むように襲う。
パキパキと音を立ててブラストベアーはみるみるうちに凍り付いていった。
(な、なんだ? 何が起こった?)
オレはつい興味本位でかがんで様子をうかがった。
凍り付いたブラストベアーが崩れた時、何かが歩いてくる。
複数人の人物、そして女の子だ。
「ブラストベアーを一撃で葬るか。成果としては上々だな」
そう言ったのはリーダーらしき男だ。
【地獄耳】のおかげで喋っている内容が聞こえるのがありがたい。
更にあいつの胸元についているシンボルを見ると、黒い翼を生やしてフードを被った人物だった。
いつかオレを襲った男にも同じものがついていたな。
と、よく見るとその男がいた。
生きていたのかという感想よりも、やっぱりやばい仲間がいたのかという絶望感が先立つ。
「ナンバー008。その勢いで遺跡の番人も頼むぞ」
リーダーがナンバー008と呼んだ少女は答えない。
水色の長髪に無機質な瞳、まったく生気というものを感じられなかった。
ブラストベアーをやったのはあの子か?
女の子はリーダーらしき男の指示に従っている様子で微動だにしなかった。
「それにしてもボルン、貴様が訳の分からんガキにやられて逃げ帰ってきたと聞いた時には頭がどうにかなりそうだったよ」
「うぅ、すみません……エギーダ様」
「ナンバー008が優秀だから今の私は機嫌がいい。感謝するんだな」
「は、はい……」
オレにやられた男ことボルンがエギーダとかいうリーダー格の男にびびっている。
エギーダはボルンに睨みを利かせた後、女の子の肩に手を置いた。
「貴様に比べてこのナンバー008は優秀だ。いや、最高傑作と呼べるだろう。この実験結果を本部に持ち帰ればマスター卿もお喜びになる」
「は、ハッ! その通りです!」
「今回の任務は新人の貴様に経験を積ませてやろうというマスター卿の計らいでもある。それを……それをッ! 貴様はッ!」
「ひいぃぃっ!」
ボルンが背中を見せて亀みたいに縮こまってしまった。
それを見下ろすエギーダと他の男達がやたらと無機質に見える。
なんだよ、あいつら。何かの秘密結社か?
あのボルン、新人とか言ってたな。
だとしたらオレはあいつに見つかっただけ不幸中の幸いと言えるかもしれない。
もしエギーダ達や女の子に見つかっていたらオレはあそこで殺されていた。
「我らに失敗は許されない。すべては神なる世界と共に」
「すべては神なる世界と共に」
「すべては神なる世界と共に」
「すべては神なる世界と共に」
一語一句、ずれのない発音に寒気がした。
何かの宗教か? とにかくやばい連中なのは違いない。
すぐにここから逃げるべきだ。すぐに――
「さっきから何やらコソコソとしている奴がいるな」
オレが逃げるより先にリーダーの視線が刺さった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます