第7話 VS バーストボア

 森の探索にもだいぶ慣れてきて、オレは拠点を移すことに成功した。

 大きな泉を発見して、ここはなかなか落ち着く。

 森の空気を吸いながら休憩していると、色々な音が聞こえてきた。


 ぼーっとしていると、バキバキと音を立てて何かが近づいてくる。

 すぐにそちらを向くと何も見えない。

 おかしいな。明らかに何かが近づいてくるんだが。


≪【聞く】が【地獄耳】に進化しました≫


 またすげぇ名前のスキルに進化したなぁ。

 地獄耳って悪口とか聞こえる程度のイメージなんだが。

 でも音がよく聞こえるようになったということは、より危機を察知できるということだ。


 少し経つとようやく獣の息遣いを感じられた。

 あれは猪の魔物か? 丸々とした体から二本の立派な牙が生えている。

 初めて見る魔物だな。丸々とした体でかなり大きい。


「いや、なんだアレ?」


 近づいて来るにつれて奇妙なことに気づいた。

 猪の上に誰かが乗っている。

 人よりも小さくて、それはいつか見たゴブリンだ。


 ゴブリンは片手に槍のようなものを持っていて、意気揚々とそれを掲げている。

 ゴブリンが猪の魔物に乗っているだって?

 マジかよ。あいつら他の魔物まで乗りこなすってのか?


 こりゃ思ったより知能が高いかもしれないな。

 オレなんてたぶん乗馬もできないぞ?


「ギャギャッ!」

「ギャギャギャッ!」

「ギャッ!」


 しかも悪いことは続くもので、後ろから出てきたのは複数体のゴブリンだ。

 何が面白いのか、やたらとはしゃぎながら向かってきた。

 これは先日のお礼参りかな?


 仲間が殺されていたのを発見したこいつらがずっとオレを探し回っていたのかもしれない。

 仮にオレが殺したわけじゃなくても、弁解なんて聞く奴らじゃないだろう。

 さて、向こうは数の暴力きたわけでオレはどうすればいいか?


名前:ライダーゴブリン

HP :24

MP :0

力   :32

きようさ:18

体力 :25

素早さ :20

魔力 :1

スキル:【振り回す】【突進】【バースト】


 さすがにステータスが高いな。振り回すってなんだよ。あの槍か?

 逃げるのは難しいだろう。

 湖の周囲は木々が茂っていて障害物が多い。

 それでいてただでさえ地の利は向こうにある。

 闇雲に逃げたところで捕まるのがオチだ。


 オレは前世で一度、チンピラ達に絡まれたことがある。

 今時こんなことがあるのかというほどベタな展開だ。

 当然ケンカなんかしたことがないオレがチンピラ達に敵うわけがない。

 そこでオレがとった行動はと言うと――


「はぁぁぁッ!」


 オレは雄叫びを上げて猪ゴブリンに突進した。

 意表を突かれた猪ゴブリンは小さく叫ぶ。

 迷わずオレは剣で猪の片目を切りつけた。


「ブオォォッ!」


 ゴブリンが乗っている猪はたまらず叫んで前足を高く上げた。

 乗っていたゴブリンがたまらず後方へと落ちそうになるのを見逃さない。

 更にオレは側面に回り込んでゴブリンの頭に剣を振り下ろす。


「ギャーーーッ!」


 ゴブリンを真っ二つに裂く勢いだ。

 猪は強そうだったけど乗ってる奴は他のゴブリンと大差ないだろう。

 いきなりボスが倒されたことで他のゴブリン達がたじろいだ。


「まだやるか?」


 オレは剣を振ってゴブリン達を威嚇した。

 ボスを失ったことでゴブリン達はすっかり萎縮している。

 オレがチンピラに絡まれた時も同じだった。


 勝つには群れの中で一番強そうな奴を狙えばいい。

 自分達の中で一番強いそいつがやられたとなったら、手下や取り巻き達はびびるからな。

 こいつは自分達より遥かに強い。そう思わせる。


 実際には全員を相手にして勝つなんて実力以前に体力的にも無理だけどな。

 これはRPGと同じだろう。

 ボスに辿りつくまでにザコで体力を消耗していたら勝てるものも勝てなくなる。

 だったら最初にボスを狙えばいい。


「ギャ……!」

「ギャッ、ギャッ……!」


 狙い通りゴブリン達は逃げ出した。

 オレがよほど恐ろしい存在に見えたんだろう。

 そして逃げ足が速いな。巧みに木々をすり抜けてあっという間に見えなくなった。

 ひとまず一難去ったか。と思ったけど、残った猪がやる気みたいだ。


名前:バーストボア

HP :54

MP :0

力   :32

きようさ:18

体力 :25

素早さ :20

魔力 :1

スキル:【突進】【バースト】


「なんでHPが上がってるんだよ」


 魔物にこんなことを言ってもしょうがないが納得いかない。

 さっきのHPは乗っていた奴のものだったのか?

 だとしたら猪に戦わせたほうが強いんじゃないか?

 いや、でも【振り回す】のスキルが消えてるな。

 魔物に乗ることで発揮されるものもあるってことか。


 ていうかよく見るとこいつ結構でかいな。

 興奮した猪改めバーストボアはさっそく突進してきた。

 このスキルはキラーラビットで学んでいるおかげで【回避】で難を逃れることに成功。

 ところがオレの後ろにあった木にバーストボアが激突すると爆発を起こした。


「ブルルル……!」

「ま、マジかよ。それ魔法なのか?」


 聞いたところで答えてくれるはずもない。

 たぶん【チャージ】だと思うが、そういうものだと思うしかない。

 片目を斬られているのにずいぶんと元気なもんだな。


 あの爆発アタックをくらったらひとたまりもなさそうだ。

 オレはわざと低く構えて【突進】をさそった。

 バーストボアはオレを睨みつけた後、前足で土をかく。


 あいつもバカじゃない。

 今度はオレの動きを見て【突進】を仕掛けてくるつもりだ。

 最初に戦ったキラーラビットもそうだったけど、こいつだって何度も狩りで他の生物を殺している。


 これは殺し合いでもあり、食い合いでもある。

 負けたほうが食われる。自然界における当然の摂理だ。

 オレは【観察】でバーストボアを見極めようとした。


 極限の状況においてスキル進化する可能性がある。

 これから先、こいつ以上の敵がいるならスキル進化するきっかけを少しでも作るべきだ。


「さぁ、こいよ」

「ブオォォーーーーッ!」


 バーストボアの【バースト】が迫る。

 オレは息を大きく吐いてから【回避】を試みた。


「ぐっ……!」


 回避に成功したつもりだけど、オレの脇腹をあいつの角がかすったみたいだ。

 爆発こそしなかったものの、ジワリと痛みを感じて思わず倒れそうになる。

 だけどここで倒れたらそのまま踏みつぶされて終わりだ。


「つあぁぁーーーーッ!」


 力を振り絞ってオレはバーストボアの側面を斬り上げた。

 血しぶきが上がるものの、厚い脂肪の奥には届いていない。

 怯んだバーストボアだけど前足を踏ん張ってくるりとこちらを向く。

 オレは脇腹を抑えながらも、剣を向けて牽制した。


「フーーー……フーー……!」

「つ、次で決着だな」


 あの爆発をもろにくらったらさすがに死ぬだろう。

 こんなところで互いに体力回復を図っている場合じゃない。

 オレは力を振り絞って駆けた。


 バーストボアもなんとか次の【バースト】を試みているようだ。

 だけどオレに斬られた箇所のせいでわずかに力が入らなかったんだろう。

 ふらついたところでオレは踏み込む。


「はあぁーーッ!」


 さっきオレが斬った箇所を再び斬る。

 最初の一撃では厚い脂肪を斬り裂けなかったけど、二回目となればきっちり内臓に届く。


「ブウウォォーーーーーッ!」


 バーストボアは前足を大きく上げた後、ズシンと地面につけてからふらりと倒れた。

 バーストボアから血が流れ出るのを見ながらオレは距離をおく。

 木に背を預けながらオレは【自然治癒】を期待した。


「あのゴブリン野郎が乗らないほうが強かったんじゃないか? あぁ痛ぇ……」


≪【回避】が【風の回避】に進化しました≫


 命を懸けた甲斐があってスキル進化してくれたみたいだ。

 できれば【自然治癒】も進化してくれるとありがたいんだけどな。

 オレは痛みを堪えながら、バーストボアを食いたい衝動も抑えていた。

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