第6話 VS ゴブリン

 川を拠点として探索して二日が経過した。

 今まで水ばかり囚われていたけど、ここには魚がいる。

 綺麗な水の中を悠々と泳ぐ魚を捕らえては焼いて食べた。


 肉と魚を摂取することでオレのステータスは着実に上がっている。

 ただし食べれば食べただけ上がるというわけでもないらしい。

 これはおそらく栄養の過剰摂取をしても効果がないということだろう。


 だからオレは食べるだけでなく、積極的に戦いをこなすことを決意する。

 いくらステータスが高くても戦闘経験がなければ持ち腐れだからな。


「ギシャアァーーー!」


 再びキラーラビットが襲ってきたが、オレはその【突進】を難なく回避した。

 キラーラビットが回避したオレの横を通り過ぎたところを剣で斬りつける。

 最初に戦った時とは違ってあっさりと倒せてしまった。


≪【回避】を習得しました≫


(そういえばまともに攻撃をかわしたのはこれが初か?)


 これで次からはもっとうまく回避できる。

 幸いキラーラビットは単調な動きだから、戦闘の練習相手にはもってこいだ。

 続いて遭遇したのは子どもほどの背丈がある二足歩行の魔物だった。


名前:ゴブリン

HP :23

MP :0

力 :16

きようさ:9

体力 :15

素早さ :15

魔力 :1

スキル:【パンチ】【ひっかく】


「ゲギャギャギャ!」

「ギャギャッ!」


 二匹のゴブリンが下品な笑い声を上げている。

 オレよりも小さいがキラーラビットだってあの強さだ。

 オレは思い切って突進して切り込む。


「ギャッ!?」

「ギャギッ!」


 剣でゴブリンどもを薙ぎ払うと驚くほど軽かった。

 たった一振りで二匹まとめて斬り飛ばす。

 初めて人の形をした生物を斬った感触は想像より重い。


「ギャギャッ!」

「ギァ!」


 斬ったものの、致命傷には至ってないか。

 血を垂らしながらも、その鋭い眼光から殺意は消えていない。

 今度はゴブリンが突進してきて、拳を放ってくる。


 寸前のところで回避して、そのパンチが木に直撃するとバキリと音がした。

 ちらりと見ると少し木が割れてへこんでいる。

 こりゃチビだからといって舐めてかかれる相手じゃない。


「いい練習相手になってくれよ!」


 オレは更なる進化を求めて、ゴブリン二匹に改めて挑んだ。

 勝つには単に体を使うだけじゃだめだ。

 【観察】のスキルを駆使して、オレはゴブリンの動きをよく見た。


 動きは素早いものの勝てない相手じゃない。

 ゴブリンは【パンチ】だけじゃなくて爪による引っ掻きも少し厄介だ。

 こっちのほうは【パンチ】と違ってかすりやすい。


 小さいダメージが積み重なるのも危ないな。

 ステータスだけ見たらオレと大差ない上にあっちは二匹だ。

 オレは一度身を引いてから、あえてゴブリン二匹の攻撃の軌道を集めた。


 狙い通り、ゴブリン達は一直線にオレに向かってくる。

 【観察】でよく見ると、左側のゴブリンの攻撃がわずかに早く届く。

 オレは一歩だけ踏み込んで剣を水平に振った。


「ギャッ!」


 ゴブリンを斬ると同時にもう一匹の【パンチ】の回避に成功する。

 残ったゴブリンが態勢を崩したのをオレは見逃さない。

 オレが回転するようにして剣を水平に振ると、ゴブリンの胴体が斬られた。


「ギイィッ!」


 さっきよりも深くダメージを与えられたおかげでゴブリン達が二匹とも倒れた。

 二匹が動かないのを確認してから、オレはようやく地面に座り込んで休む。

 恐ろしい相手だったけどこの言い知れぬ充実感はなんだろうな。


(すっげぇ気持ちいい……)


≪【剣(チャンバラ)が剣(見習い)に進化した!】≫


 これだよ、これ。

 生き残ったことによる安心感もあるだろうけど、何より成長した実感を得られた。

 【剣(チャンバラ)】からようやく剣士としての一歩を踏み出せたってことか。


(また腹が減ってきたな)


 ふと死体を見ると見た目の割に筋肉密度が高いとわかる。

 細いながらもぜい肉がほとんどなくて、少し前のオレなら殺されていたなと思った。

 ただしこいつは食べられないな。

 筋肉どうこう以前に人型の生物は少し抵抗がある。


 いや、パワーアップの可能性があるなら食べるべきか?

 だいぶ悩んだ末にオレは【解体】を試みることにした。

 いざ作業に入るとなかなか筋肉の繊維が邪魔して刃が入らない。

 やっとの思いで解体して焼いて食べてみるとすぐに後悔した。


「うえぇぇ! まっずぅ! 臭いもやばい!」


 オレは思わず戻してしまった。

 口の中に入れただけで涙が出てしまう。

 固い肉を噛んだ瞬間に嫌な味の汁が出てきて、それがまずいのなんの。

 これはダメだ。本当にダメだ。


 当分の間、肉はツノウサギだけでいいな。

 他の栄養素は野草や木の実で補えばいい。

 

名前 :天上 シンマ

年齢 :16

性別 :男

HP :48

MP :14

力   :20

きようさ:16

体力 :17

素早さ :17

魔力 :8

スキル:【スキル進化】【呼吸】【聞く】【観察】【歩行】【食事】【回避】【パンチ】【キック】

    【自然治癒】【睡眠】【剣(みならい)】【アイテム圧縮術】【解体】【木器作成】【弱毒耐性】【弱水耐性】


 今の戦闘でステータスが大体【+2】程度上がったみたいだな。

 この上昇量ってどうなんだろうな?

 これはスキル進化とは関係なさそうだし、この世界としての標準的な上がり方なのか?


 オレ個人の感覚としてはこの短期間でゴブリン二匹を倒せたのはすごいと思う。

 自画自賛だけど、この充実感は何物にも代えがたい。

 オレは水筒を取り出して水を一気に飲んだ。


「ぷはっ……あぁ、おいしい」


 久しぶりに汗くらい流したいな。

 探索を始める前に川で水浴びをしていくか。

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