第5話 強くなりたければ食らえ

 肩の痛みは数時間ほど経ってようやく引いてきた。

 それでもあまり無理はできないな。

 念のため、オレは動かずにまだ休み続けることにした。


 ふとツノウサギの死体を見ると食欲が湧いてくる。

 先日の木の実だけじゃ明らかに栄養が偏るし、たまには肉が食いたい。

 それに狩りをするという原始的な営みに対する意欲が唐突に芽生えてきたってのもある。


 オレはさっそくツノウサギを解体して食べることにした。

 とはいえ、オレに解体の知識はない。

 だからそこはもう、ほら。あれよ。


 スキル進化さん、頼んだ。

 オレは休憩をやめて剣をツノウサギに刺し込んだ。

 こいつのどこが食えるのかさっぱりわからないがやってみよう。


「ふぅ、こんなものか?」


 かなりズタズタになってしまったが部位ごとに分けられたと思う。

 これも経験者から見れば失笑ものだろうな。


≪【解体】を習得しました≫


「よし! よしよし! スキル進化最高!」


 これでオレに解体の技術が身に着いたってことでいいのかな?

 やってみるだけでスキルを習得、いや。進化するというのもすごい話だな。

 たぶんこれはオレの解体の腕がそのまま上がったんだろう。

 未熟な腕からそれなりにってところか?


 さっそくこのツノウサギを食べようと思うが、ここでまた大切なことに気づいてしまった。

 生肉のまま食べられないよなぁ。

 スキル進化が何とかしてくれる可能性もあるが、さすがに何度も賭けには出られない。

 スキル進化しなかったらそのまま死ぬ可能性がある。


 オレは少し考えた後、手頃な枝を見つけた。

 こいつをこすって摩擦熱で火を起こそうというわけだ。

 枯れ枝や枯れ葉を集めてから、枝を両手でこすり合わせて木に火を起こそうとするがまったくつく気配がない。

 これはさすがにスキル進化は難しいか。


 ここがファンタジーな世界なら魔法なんか使えてもいいと思うんだけどな。

 今のオレの魔力は【5】だ。他のステータスと比べてほとんど上がっていない。

 これはオレという人間に魔法の素質がないってことでいいのか?


「て、手が痛い……」


≪【木器作成】を習得しました≫


 石をこすりすぎて手に限界がきてしまったところだ。

 【木器作成】だって? オレはそんなものを作ろうとした覚えがない。

 もしかしてオレが一生懸命に枝をこすっていたのが木器作成と解釈されたのか?

 いや、誰に?


 木器作成ができるようになったということは、より火を起こしやすく加工できるってことだ。

 オレは剣で木を加工して再び火おこしに挑戦した。


「つ、ついた! 火がついた!」


 枯れ葉や小枝に火が広がる。

 オレはさっそく【解体】でツノウサギの肉をより食べやすく加工して、【木器作成】で串を作った。

 ツノウサギの肉を串に刺して焚火の前に刺すと、やがて肉から油が滴る。

 うまそうな匂いが漂ってきてオレは涎が出てしまった。


 オレはたまらず串を手にとって肉にかぶりつく。

 口の中に肉の味が広がってオレは理性が飛びそうになった。

 何せ転生してから久しぶりの肉だ。

 まさかこんなご馳走にありつけるなんて思わなかったってのもある。


 味は思ったより淡泊で、鶏肉に近いかもしれない。

 オレは自分でも信じられないくらい肉を次々と食べ続けた。

 口直しに木の実を食べるのもいいがさすがに喉が渇くな。


 オレは【木器作成】でコップを作った。

 コップで川の水をすくってゴクゴクと飲む。

 害さえ考えなければ、冷たくておいしい水だ。


 水を飲みつつ、とにかく食べる、食べる、食べる。

 そしてツノウサギを食べ尽くしていることに気づく。

 我に返るとオレはなんともいえない充実感を感じた。


 ごちそうさま。すごくおいしかった。

 これが命をいただくということなんだな。

 オレはツノウサギによって生かされた。


≪【食事】を習得しました≫


 今更と突っ込みたかったが、これはもしかして有用かもしれない。

 食事はエネルギーに摂取する行為だ。

 もしこれで効率的にエネルギーを摂取できるようになったとしたら?


 そう思った時、オレの血肉がわずかに躍動した気がした。

 筋肉や血がまるで独立して生きているかのように感じる。

 さっきまで疲れていたのに今は一晩ぐっすり寝たかのように力が漲っていた。

 これはもしかしてステータスに変化があったんじゃないか?


名前 :天上 シンマ

年齢 :16

性別 :男

HP :45

MP :14

力 :18

きようさ:14

体力 :16

素早さ :15

魔力 :8

スキル:【スキル進化】【呼吸】【聞く】【観察】【歩行】【食事】【パンチ】【キック】

    【自然治癒】【睡眠】【剣(チャンバラ)】【アイテム圧縮術】【解体】【木器作成】【弱毒耐性】【弱水耐性】


 ステータスが大幅に上がってるじゃん。

 オレが思った通り、【食事】によって効率的にエネルギーを摂取できたってことだろう。

 今ならツノウサギと戦っても【突進】を回避できそうな気がする。


 うん、肩の痛みもすっかりなくなっているな。

 強くなりたければ食らえ、か。

 前世でそんなことを言っていた漫画のキャラがいたような気がする。

 さすがに毒や皿は食えないだろうけど。


 ところでMPや魔力も上がっているんだが、やっぱり魔法は使えないのか?

 今のところこの二つが死にステになっているのが気になるな。

 こんなことなら魔法についてあの女神に質問しておくべきだった。

 が、そんなことを転生前に思いつくはずもない。


 剣はともかく魔法の練習なんて見当もつかない。

 どこかに凄腕の魔道士か何かがいればいいんだが。

 何をするにもこの森を出ないことには話にならない。


 ひとまず【木器作成】でオレは水筒を作った。

 水筒といってもヒョウタンみたいなもので、あくまで水を持ち運びするためのものだ。

 保冷性もないだろうけどないよりマシだ。


 水筒に水をたっぷりと入れてから【アイテム圧縮所持】でカバンに入れた。

 【木器作成】のおかげで色々と余裕が出てきたな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る