第4話 魔物とエンカウント
剣の修行を始めて三日が経った。
あれから一心不乱に剣を振っているが、そもそもこれは修行になってるのか?
腕に覚えがある人が見たら鼻で笑うだろうな。
そんなことを考えながら今日も森を探索している。
ここは本当に出口がさっぱり見えない森だ。
ひとまずようやく見つけた川を拠点にすることにした。
川だから猛獣が水を求めてやってくる可能性があるが、オレだって喉が渇く。
生水を飲むのは危険極まりないが、他に綺麗な水がある保証もない。
スキル進化を信じて思いっきり飲んだ。
前世でも汚い水しかない地域で暮らしている人々がいると聞いたことがある。
その人達は汚い水に適応しているから腹を下さないらしいな。
それだったらオレも適応できるはずだと信じてみた。
すると案の定、とてつもない腹痛に襲われてえらいことになる。
先日の木の実を食べた時よりかなりきつい。
≪【弱水耐性】を習得しました≫
「そのまま水耐性なんだ……」
思わず突っ込んでしまう。
腹の痛みがないし、もう水を飲んでも問題ないだろう。
正直に言ってホッとした。
だってもしスキル進化が仕事をしなかったら、そのまま死んでいた可能性があるからな。
こうして見るとこのスキル進化、どちらかというとオレ自身の進化に近い。
オレの体が生水に適応したのを【弱水耐性】と言い換えているだけだ。
そうなるとこの森に転生したのはある意味で正解だったか?
もしオレが生ぬるい環境に転生していたら、この進化がなかった可能性がある。
あえて過酷な環境に身を置くことで進化するものもあるというわけか。
でも、だからといってあの女神に感謝する気持ちは芽生えないが。
無事、お腹が落ち着いた時にはすっかり夕暮れだった。
この日は木の根をまくらにしながらオレは眠ることにする。
もちろん寝心地は最悪だ。これもスキル進化しないかな?
翌日もオレは剣を手放さずに森を探索する。
心なしか剣が軽くなった気がするな。
振ってみるとわずかに楽に動ける気がした。
名前 :天上 シンマ
年齢 :16
性別 :男
HP :28
MP :9
力 :12
きようさ:8
体力 :10
素早さ :9
魔力 :5
スキル:【スキル進化】【呼吸】【聞く】【見る】【歩行】【パンチ】【キック】
【自然治癒】【睡眠】【剣(チャンバラ)】【【アイテム圧縮所持】【弱毒耐性】【弱水耐性】
(少しずつステータスが上がっているな。だけどそれだけじゃ説明がつかない)
体の回転を交えつつ、剣を振ってみるとやっぱり体が少し軽い。
昨日はここまで軽やかに動けなかったと思う。
なんていうか、オレ自身に剣の才能があるように錯覚してしまうほどだ。
今なら何でも勝てる気がするぞ。
あの男でもなんでも来い。
いや、やっぱりやめてほしいかな。
「ギシャアァーーー!」
「な、なんだ!?」
調子に乗っているオレの目を覚まさせてくれたのはウサギだ。
ただし顔は凶悪極まりない。殺意マシマシの一本角が額から生えている。
しかも角の先がドス黒く変色してるし、どう見ても捕食経験あるだろう。
そのツノウサギと目を合わせたままオレは動かなかった。
初めて遭遇する人外にオレは恐怖を感じている。
だけどこういうのは目を逸らしたら負けというからな。
構えになってるかわからないがオレは剣を構えた。
そしてツノウサギが果敢に突っ込んでくる。
ウサギのツノがちょうど剣に当たったようで、オレは衝撃で倒されてしまった。
ツノウサギも同時に弾き飛ばされて転んだがすぐに態勢を立て直す。
オレも負けじと剣を構えるが間に合わない。
「うぐあぁッ!」
ツノウサギのツノがオレの左肩に突き刺さる。
そこでちょうどオレとツノウサギの目が合った。
ツノウサギは完全に勝ちを確信しているように見える。
狩りは成功だ。
オレの肩にツノを刺したまま動かないツノウサギがそう言ってる気がした。
こんな小動物みたいなのに狩られてたまるか!
「くそったれぇーーーー!」
オレは地面に尻餅をつけたまま剣をツノウサギに突き刺した。
痛みで力が入らなかったけど、しっかりとその横腹に刺さる。
「ギピャッ……!」
ツノウサギが血を噴き出して動かなくなる。
やがてその体から水色の霧のようなものを放たれた。
霧がやがて形作ったのは何かの液体が入ったビンだ。
「な、なんだこれ……」
ひとまずこの刺さったツノウサギを肩から抜かないとな。
左手で抱き込むようにしてウサギの死体をオレの肩から引きはがす。
その直後、オレは後悔した。
「うぁッ! い、いってぇ……!」
オレの左肩の血が本格的に流れた。
まずい。このままだと死んでしまう。
どうする? どうすればいい?
ふとツノウサギの体から出たビンが視界に入った。
なんでこんなものが魔物の体から?
明らかに怪しいがこのまま死ぬくらいならと考えたオレは無我夢中でビンを手に取った。
ビンを持つ手を震わせながら口をつけて液体を飲む。
すると気絶しそうなほどの痛みが少しずつ引いていく。
出血の量も次第に減っていて、オレは座ったまま肩を抑えた。
時間が経つごとに楽になっていく。
肩を見るとまだ完全には治っていないものの、出血は止まっていた。
だけど痛みが引いたわけじゃないからまだしばらくは動けない。
あのビンに入った液体はもしかしていわゆるポーションか?
だとすれば魔物のドロップアイテムってところか。
助けられたが、これをドロップしなかったらと思うとゾッとする。
今のは【自然治癒】だけでどうにかなるかどうか、かなり怪しかった。
落ち着いたオレはツノウサギの死体を見た。
大きさは普通のウサギとほぼ変わらないのに、とんでもない力だったな。
こんな魔物がうようよいるのか?
ツノウサギから目を離さずにいると何かが頭の中に浮かぶ。
≪【見る】が【観察】に進化しました≫
名前 :キラーラビット
HP :18
MP :0
力 :10
きようさ:12
体力 :6
素早さ :15
魔力 :3
スキル:【突進】
「え、なにこれ? まさかこいつのステータスか?」
こいつの名前はキラーラビットというのか。
これは興味深いな。素早さは突出しているものの、他はオレと変わらない。
オレがこんなに深手を負ったのは単に戦闘経験が未熟だからだろう。
ステータスだけですべて決まるほど甘くはないってことか。
他に気になるのはスキル【突進】だ。
オレの【パンチ】や【キック】みたいなものか?
魔物にもこういうスキルがあるなら人間にもあると考えるべきだ。
ますますオレが先日の男に勝てたのは奇跡だったな。
それにしてもまだ肩が痛いな。
【自然治癒】が仕事を果たすまで動けそうにない。
あぁ、腹が減ったな。
木の実の果物だけじゃさすがに飽きてきたから、いっそあのウサギでも食べてみるか?
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