第3話 成長

≪【睡眠】を習得した!≫


 オレが目を覚ますとそんなメッセージが頭の中に流れた。

 布団はないし地面はゴツゴツしているからあまり眠れなかったな。

 だけど次からは快適な睡眠ができるってことか?


 起きた頭でオレは改めて状況を把握することにした。

 まずはステータスだ。


名前  :天上 シンマ

年齢  :16

性別  :男

HP  :26

MP  :8

力 :11

きようさ:7

体力 :9

素早さ :8

魔力 :4

スキル:【スキル進化】【呼吸】【聞く】【見る】【歩行】【睡眠】【パンチ】【キック】【自然治癒】


 少しステータスが上がっているな。

 どうやら昨日の男と戦ったおかげで強くなったみたいだ。

 ただ上がり幅としてはそう大きくない。

 それなのにあの男に勝てたのはスキルのおかげだろう。


 それだけ【パンチ】や【キック】の威力が高かったと考えられる。

 そういえば何かのゲームでも【パンチ】という名前の攻撃方法があったな。

 あれを考えれば【パンチ】というスキルに何らかの力の補正がかかっていても不思議じゃない。


 【自然治癒】のおかげで痛みはほとんどなかった。

 元々人間に備わっている自然治癒の力が向上したんだろう。

 あれだけ殴られたのに跡がほとんどないんだからな。


 オレは昨日の男が持っていた非常食を食べた。

 パサパサして味はしないし喉が詰まる。率直に言ってまずい。

 死なないための食事だと割り切るしかないな。


(予想以上に喉が渇いてきたぞ)


 この非常食のせいというのもあるけど、単純に水分不足だ。

 この辺りに川でもあればいいんだけどな。

 生水は危ないだろうがそんなこと言ってられる状況じゃない。


 しばらく歩いて探索すると、実をつけた木がいくつか生えていた。

 綺麗な桃色をした実で思わず生唾を飲み込む。


(毒じゃないよな? いいよな?)


 オレはたまらず木の実を採って齧った。

 甘くて水分たっぷりの味が口の中に広がる。

 夢中で食べ終えると、なかなかの満足感が得られた。


「あー、うまかった。これで……あれ?」


 なんだか手足がピリピリと痺れてきたぞ?

 あれ? これやばくね?

 オレはついに立てなくなって間もなく激しい頭痛と吐き気に襲われた。


 やっちまった。

 まずいな、せっかく生き残ったのにここで死ぬとか情けなさ過ぎる。

 大体あんなにおいしいのに毒があるとか残酷すぎるだろ。


                * * *


≪【弱毒耐性】を習得した!≫


 どのくらい悶え苦しんでいたのかわからない。

 気がつくと頭痛や吐き気が消えて、オレは気分がよくなっていた。

 またスキルが進化したみたいだな。


 これは人間が持つ本来の解毒能力が進化したんだろう。

 ん? ということは、だぞ?

 オレは木の実をもう一つ採って食べてみた。


 甘い。おいしい。

 さっきは食べた直後に毒で苦しむはめになったけど、今はなんともない。

 それどころか体に力が漲るようだ。

 できればいくつか持っていきたいんだが、このカバンにあまり数は入らないな。

 できるだけ持っていくか。


≪【アイテム所持】を習得した!≫


「マジかよ」


 アイテムを持つこともスキルってか?

 このカバン、微妙に小さいな。もう少し木の実を入れたい。

 どうにか一つでも多く入るか試行錯誤してみたが、五つが限界みたいだ。

 これでいいか。


≪【アイテム所持】が【アイテム圧縮所持】に進化した!≫


「マジかぁ!」


 カバンに入れた木の実が小さくなった。

 そして取り出すと元の大きさに戻る。まるで四次元ポケットみたいだな。

 木の実が五つどころか十五個ほど入るようになった。

 一気に三倍か。これはモノによって変わるのか?


 【アイテム所持】はいとも簡単に進化したな。

 ようやくスキル進化の真価が消えてきた気がする。

 単に自分が持つ力が伸びるだけじゃなく、こういう特殊能力も身に着くのか。


 オレは適度に休憩を挟みながら探索した。

 何をするにしても森を出て町を目指さないとな。

 文明社会に触れておきたいし、何より先日の男の仲間というのが気になる。


 町に行けばあの黒い翼のシンボルについて何か知ってる人間がいるかもしれない。

 あんな危険な奴が他にもいるなら絶対に知っておくべきだ。

 それに先日オレが勝てたのが偶然なのは間違いない。

 あいつがオレを舐めてくれなかったら、いきなり剣を抜いて襲いかかってきただろうからな。


 だから結果に甘えずオレはしっかりと戦闘経験を積んでおきたいところだ。

 あいつほどとはいかなくてもどこかに手頃な相手がいないものだろうか?

 いわゆるレベル上げというやつだ。


 だけどステータスを見たところ、どうもレベルという概念はないらしい。

 どちらかというと戦うたびにどこかのステータスが伸びていくタイプだ。

 つまりステータスが高い奴ほど戦闘経験があるということになる。


 本当は前世でもやっていたように筋力トレーニングもやっていきたいけどな。

 前世じゃ大した成果にはならなかったけど、スキル進化なら努力が実る可能性がある。

 これがワクワクしないわけがない。

 オレは男から奪った剣を鞘から抜いて真っ直ぐ持つ。


(結果が出ないのはつらかったからな。せめてこの世界では成長したい)


 そう決意してオレは剣を思いっきり振って草を切った。


≪【剣(チャンバラ)】を習得した≫


「チャンバラって……」


 これってつまり今のオレの剣術はチャンバラ程度ってことか?

 でも【パンチ】や【キック】のように、威力は高いと思うんだがどうだ?

 試しに木を切ろうと水平に剣を振った。


「いってぇ……」


 木には切り込みが入っただけで切断には至らなかった。

 剣なんて初めて握ったから、この斬り込みがどの程度のものかわからないな。

 まぁチャンバラだから大したもんじゃないだろう。


 ひとまずこの剣を鍛えていくしかないな。

 さすがに【パンチ】や【キック】じゃ心もとない。

 オレはその場で剣を振って少しでも鍛えようと努めた。


 型も何もあったもんじゃない。

 せめて最初は動かない植物を切り続けよう。

 まずは剣というものに慣れておかないとな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る