第7話・星座占い

あの日から。

母親は俺の顔を見るとへらへらと愛想笑いを浮かべるようになった。

子供に媚びへつらう人生は楽しいか?


もう皿は投げねえよ。

父親のすすり泣きなんて二度と聞きたくない。

爺ちゃんが死んだときだって泣いてなかったのに。


ゲームはしたくない。

YouTubeもつまらない。

ぼんやりとする時間が増えた。


そういう時に思い出すのは、エリスだ。


『コンビニのシュークリームはファミマが至高だけど。ティラミスはセブンが究極です』


どうでもいい話をだらだらと話す時間が好きだった。


◯☓オックスの誕生日ってもうすぐですか?』

「違うけど」

『あっ。てっきり牡牛座なのかと……』

「別にごめんとかはいらないから。昔から春生まれのスバルって勘違いされてたし」

『牡牛座じゃなかったら、牡羊座ですか?』

「うん」

『牡羊座。すっごく◯☓オックスっぽいです』


エリスは星占いが好きだった。

俺は占いなんて信じてなかったけど。

あのときはエリスに牡羊座についての性格占いをしてもらったんだっけ。


『負けず嫌いでアクティブ。裏表のない性格が人気の牡羊座さん』

「裏表がなさ過ぎて羊の群れから追い出されたんだよ」


揃いの色を身に纏った群れで、俺だけが紺色に染まれなかった。

制服の首元が息苦しくて、足にまとわりつく布が気持ち悪くて。

体育着で授業を受けさせてくれと頼んだんだ。

学年あずき色のジャージならまだ耐えられたから。


けれども、それは許されなくて。

人と違うことを求めた俺は異端扱い。


無視してくれたら良いのに。

好意と悪意を綯い交ぜにして押し付けられた。


悪意が一線を超えた頃。

俺は学校に行かなくなった。


『ねえ。◯☓オックスのお誕生日教えてください』


詳しく占いたいとエリスが聞く。

俺は隠すことでもないと正直に答えた。


『来年はみんなで◯☓オックスのお誕生日をお祝いしましょうね』


来年なんて来ないじゃないか。

嘘つきエリス。

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