第6話・家族の時間

朝も昼も夜も。

寝て過ごした。

眠りすぎて眠れなくなっても、ベッドの中で過ごした。


手の中のスマホで楽しくもないYouTubeを見る。

オススメは攻略動画ばかりを勧めてくる。そんなもん、二度と見ねえ。


スマホを枕の上に放り投げる。

腹が減った。飯にするか。


階段の踊り場。

リビングに繋がる扉の向こうには家族がいる気配がした。


昼間なのに、なんで?

少し考えて今日が日曜か祝日なのだと気付いた。


別にここは俺の家だ。

好きに振る舞って何が悪い。

気にせずリビングを通り過ぎ。

キッチンに向かった。


「最近、夜も静かだけど。もしかして、ネットの友達からも見捨てられたの?」


ソファーに仰向けに寝そべるような姿勢でファッション誌を読んでいた姉に向かって。

持っていたグラスを投げつけた。


グラスはソファの後ろの壁にぶつかって粉々に砕ける。

テレビを見ていた母親が悲鳴をあげた。


大袈裟なんだよ。

たかがグラスの1つぐらい。


だけどダイニングテーブルで本を読んでいた父親はそう思わなかったらしい。

大股で数歩。俺に近づいてきたかと思うと、その大きな手のひらで俺の頬を叩いた。


パンッとグラスが割れたときよりも大きな音がして、俺の身体が大きく揺らぐ。

咄嗟にシンクのふちに手をかけて、倒れるのを防いだ。


「危ないじゃないか」


視界の端から父親の声がする。

絞り出すような声で言うことがそれなのか?


「危なくなければ何やってもいいのかよ」


それじゃあ言わせてもらうけど。


「俺は筑波大付に行きたかったんだよ。親の母校とか関係ねえんだよ。俺の行きたい学校に通わせてくれてたら。こうはなってねえんだ。俺の人生返せ」


中学受験をしたことは別に構わない。

勉強は嫌いじゃなかったし。

むしろ爺ちゃんに褒められるから好きだった。


だけど進学先を押し付けられたのは許せない。

しかも理由が自分の母校だから。

そんな理由で偏差値10以上落として受験しろなんて馬鹿だ。

俺の親は馬鹿なんだ。


「俺とてめえは全然違うだろ。なんで自分が良かったから俺にも合うと勘違いした? 馬鹿なのか? ああ。馬鹿だったな。牡羊座の子供に牡牛座の“すばる”なんて付ける大馬鹿野郎だったな」


なぜか父親は自分の赤くなった手のひらを見つめて泣いていた。

泣くぐらいなら初めから叩くなよ。

俺も痛い。


母親は自分は悪くないとヒステリックに叫ぶから、黙るまで適当な皿を投げてやった。

宙を舞う中に結婚祝いに買ったというコーヒーカップもあったけど。

俺は悪くない。


俺の人生は金をいくら積まれても、もう元通りには戻らないんだから。


俺がアイスとコーラを持って部屋に戻るとき。

姉は黙って割れた皿のかけらを集めていた。

良い子ちゃんぶってるの、ムカつくんだよ。



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