第171話:母さん、過去を、かく、語りき



 母さんと、お風呂で湯船に。


 どうして、こうなった?


 母さんが通っていた頃の、東雲女子高校が、どんなだったかを聞いたら。


 何やら、母さんの昔語りが、はじまった。


 それは、おそらく……。


 聞きたいような、聞きたくないような。


「今で言うところの、えぇっと、陽キャ? リア充? みたいな、わりと明るい友達と一緒に居る事が多くてね」


 うん。


 最近は、もうあんまり、そういう風には言わなくなってる気はするけど、言わんとする事は、なんとなくわかる。


「三年生の夏に、何故か大学生と合コンすることになってね」


 へー。


「女子校だと、わりとそういう事って、よくあるの?」


 この間、中学時代の男友達と遊んだのも、合コンと呼べなくもない。


「うーん、どうだろう……他のひとの事はよくわからないけど、そんなに無かったんじゃないかと思うな」


 ふむふむ。


「それで、合コンに行ったの?」


「うん」


「その合コンで、何かあった、と?」


「うん。お母さん、当時、男の人の事ってよくわかっていなかったのよねー」


 ふむふむ。


 もろ先輩たちと同じような感じだった、って事ね。


「それでね、そこで知り合った男の人に、そのままお持ち帰りされちゃったわけ」


 ぶっ。


「いきなり?」


「そう、いきなり」


 うわぁ。


「右も左も、解らない中でもう、パニック? と言うか、口車に乗せられたと言うか……」


「それで?」


「その男の人とお付き合いする事になったんだけど……」


「だけど?」


 少し言い淀む、母さん。


 後ろ向いてるから、表情は、わからないけど。


 言いにくい、話、なんだろうか。


 でも。


「二学期の終わり頃に……」


 意を決したか、の、ように。


「妊娠しちゃったことが解って、ねぇ」


「ぶっ!」


 えええ。


 いきなりもう、そんな?


「いやぁ、もう、大騒ぎだったのよー」


 そりゃ、大騒ぎでしょうね。


 女子校に在学中に妊娠発覚とか……うわぁ、だよね。


 そして、その時の子供が……。


「当時教頭先生だった弓永先生……今の校長先生にこってり絞られたけど……なんとか、卒業まで面倒を見てもらえることにしてもらったの」


「そう言えば、相手の男の人……お父さんは、蒸発、したんだっけ?」


「うん。わたしの妊娠がわかったとたんに、連絡が取れなくなっちゃって」


 本当に、ひでぇ。


「実の両親に勘当されちゃって」


 そっちも、本当に、ひどい話、だよね。


 そういういきさつだから、あたしはその人たちには会った事、無いんだけど。


 一度、文句のひとつでも言ってやりたい、ところ。


「その人の実家の連絡先はわかってたから、ご両親に相談して……」


 そう、それはあたしも知ってる、今の、祖父母。


「養子縁組してもらって、卒業から出産、子育て、就職まで面倒見てもらったのよねー」


 声は明るさを装っているけど。


 実のところ。


 それって、めちゃくちゃ苦労したって事、だよねぇ……。


「そう、だから、ある意味、当時の東雲女子で、一番ハメを外して、ぶっ飛んでたのは、お母さんだった、かも?」


「うーん……ちょっと違うような気もするけど……純粋すぎてそうなっちゃったんだし、ほとんど騙されたようなものでしょ?」


 少し聞き入っちゃってたので、肩揉みが、お留守になってた。


 肩揉みを、再開しつつ。


「そうね。わたしも、ちゃんと教えてもらってなかったし、自分で学ぼうとも思ってなかったから、ねぇ……真綾にはそんなふうにならないように、ちゃんと教えなくちゃって思いながら、これもなかなか、ねぇ……」


 うーん。


 そりゃ、そうだよねぇ。


 教える方も、教わる方も。


 同性なら、まだしも。


 揉み、揉み。


 母さんの肩を揉みながら。


 ひとしきり、思案。




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