第80話:森本くんはフネが好き




「えっと、こちらウチの中学時代の友達の『森本』くん」


 暑い暑い、真夏の夏休みのある日。


 ウチに集った『八時間目』の面々と、『森本』くん。


 ウチのリビングには冷房も効かせてあるとはいえ。


 そこからさらに冷え込んだような、空気。


 その空気を、打破すべく。


 先ずは、ウチが森本くんを先輩方に紹介。


「そして、こちらがウチが通ってる『東雲しののめ女子高等学校』通称『しの女』の、二年の先輩」


 三人は、テーブルを挟んで、ウチと森本君の前に座ってらっしゃる。


「それからこちらが、顧問の先生」


 森本くんの隣、ウチを挟んで反対側に、エリ先生。


 皆、緊張しているのか、とりあえずは軽く会釈するだけで。


 そんな中、森本くんも緊張しきり、だけど。


「簡単に自己紹介、おねがい」


 と、振ってみれば。


「お、おぅ……」


 一応、ソファから立ち上がって、んほん、と、咳払いした後。


 わりとはっきりした声で。


「森本セイジ、北輪高校一年」


 と、までは良かったが。


 ウチ同様に、森本くんも何も考えていなかった模様。


「……」


 さらに凍る、空気。


(好きなもの、とか、夢とか?)


 小声で、アドバイス。


(好きなもの……好きなもの……ゆめ………)


 考えてる考えてる。


(!)


 なんかひらめいたらしい。


 そして、はっきりと。


「好きな物はフネで、将来はフネに乗りたいです!」


 あら、意外。


(船って、栄螺さ〇えさんのおばあちゃんだっけ?)

(お母さんでしょ)

(え、でも、おばあさんじゃん)

(栄螺さんの子供の鱈ちゃんから見たらおばあちゃんだけど)


(そんなおばあちゃんが好きで、その上に乗りたいなんて……)

(かなり特殊な趣味ですわね……)


 なにやら、三先輩が、ぶつぶつとおっしゃられてますが。


 聞こえてますから、ね?


 ここは、助けを出しておこうか。


「船って、どんな船? ヨットとかボートとか小さいの? それとも、もっと大きな貨物船とか客船? 漁船ってのもあるね」


 ウチが、みんなにも聞こえるように森本くんに、問う。


「あぁ、今はまだどんな船って決めてないけど。とにかく、船が好きで、船に関わる仕事がしたいなー、なんて」


 そっか。


 友達とは言え。


 そこまで深い付き合いでもないこともあって。


 そんな、将来の夢とか希望とかって、少し恥ずかし気な話は。


 ほとんどしたことなかった、っけ。


「じゃあ、先輩方も自己紹介、お願いします」


 とりあえず、場を進めよう。


「小坂デス」

「中原よ」

「大里ですわ」


 いや、まあ、金髪子先輩から、小中大と。

 連携はすばらしいですが、めちゃくちゃ簡潔に完結。


「えっと、『しの女』の二年生の先輩、ね。小学校からずっと女子校で男子に慣れてないって」


 言うコトで、一応『八時間目』の話を軽くおさらいして。


「そしてこちらが顧問の……」


「沢田よ。よろしくね、森本くん」


 ウチは背をのけぞらせて、少し身を引いてエリ先生と森本くんが顔を合わせられるようにすると。


「こちらこそ、よろしくお願いします、沢田先生!」


 森本くんが元気にエリ先生にご挨拶。


 と。


 金髪子先輩がいきなり、ウチを指さして。


「あー、園ッち色ブラ着けてる!」


 え?


 何ぶち込んでくれてるっすか、金髪子先輩っ!?




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