第75話:それって、ウチじゃんかよ
「もう、だいぶ慣れたよ」
友人たちの問いに。
雪人さんのショップを出た後、ファミレスで涼みつつ、喉を潤す。
「『しの女』が共学になったって聞いたけど、まさかね」
「普通なら男子用の制服も用意するだろ」
「それがどうもなんか、してやられた感があるんだよなぁ」
そう。
「でも本当に似合ってるのが草」
「だよなぁ、ツーショット撮って、他のヤツに『彼女できた』って自慢してよい?」
「あ、オレもオレも」
「だから、やめとけ、山田、若林」
「あはは。写真撮るのは構わないけど、彼女はやめて、ね?」
あ。
また、固まってる。
「園田……おまえ、それ、狙ってやってるのか?」
いやぁ、森本くん。
ご指摘、ありがとうございます。
「実はさ……」
八時間目の授業のコト。
男が苦手な先輩方と、ウチを女らしくするための、諸々を話す。
「でも言葉遣いそのものは変わってない……いや、変わってはいるけど、女っぽく無いよな」
「さすがにねー。この声だし、言葉遣いまで女子にすると、自分でも鳥肌なんだよね」
「うむ。違和感が無いのはそのせいか……だけど、オレじゃなくてウチになってるよな?」
「うん。そこだけは……」
さっきのショップの店長にもアドバイスを貰い。
「なるほど。女装用のグッズを買うだけじゃなくてそんなアドバイスまで……だから馴染んでたのか」
「うんうん。お世話にもなってるし、色々グッズ買ってるしね」
ある意味、女装の先輩として、店長の息子さん、アキラくんにもお世話になってます、なんて話もしてみると。
「うわぁ、自分の子供に女装させてるのか……エグいな」
「いや、アキラくんは自分から女の子の格好したがってるって言ってたよ」
「そうなの?」
「パパとママと同じのがいい、って」
「いや、それ、遠回しだけど、誘導してるよね」
確かに?
わはは、と、笑い合う。
ひとしきり、笑った後、川村くんが、唐突に。
「実は……」
と、少し真剣な顔で話し始める。
「オレのクラスに一人、園田みたいなヤツが居るんだよな」
と。
聞けば。
川村の学校、工業系の学校なので男子が多くて、女子は少ない。
クラスの男子の一人が、ウチみたく女装して登校しているんだとか。
校内ではほとんどが作業着らしいので、女子も男子も同じ格好にはなるけど、髪型とか、仕草とか。
「じゃあ、その子は、言葉遣いとかも全部、女子なの?」
ウチも疑問に思って、川村くんに訊いてみると。
「うん、そいつは園田と違って、完全に自分は女だと思ってるみたいでさ」
あぁ……。
ウチの場合は、心と言うか、本質は、男子。
でも、その子は。
川村くんが続ける。
「中学の時はだいぶ苦労してたらしいけど、今の高校はわりと理解があるみたいでね」
川村くんによると。
学校の方でも授業の中で『LGBT』『LGBTQ+』についての説明をし、校内でも対応をしていると言う。
「だから、トイレとかも男女兼用の多目的トイレとか、着替え用の個室も用意してるみたい」
とのこと、らしく。
うんうん、わかるな、その苦労。
川村くんは、最後に。
「園田は、別に女になろうとか、なりたいって訳じゃないんだろ?」
「そうだね。ウチは校則で仕方なく、だけど」
「その割には、楽しそうだし、かなり気合入ってるよな?」
若林くんが、脇から突っ込んで来るけど。
「あはは。まぁ、成り行きで、ね?」
「……」
「園田……そういうところだぞ……」
「うん、うん」
え?
「よし、ツーショット写真、撮りに行くぞっ!」
またいきなり、若林くんが席を立ち。
「おぅっ! どこ行く?」
そして、山田くんも追従して立って。
「『しの女』だ。『しの女』の校門バックに写真撮るぞっ」
「おぉーっ!」
「まぁ、いいけど」
「よし、行くか」
川村くんと森本くんも席を立つ。
「ちょ、ま……」
それって、すなわち、ウチじゃんかよっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます