第74話:ピンクまぁや~桃色真綾くん



(おい、あれ、マジか……)

(ホントに着けてるのか……)

(ヤべぇ、ヤバすぎる……)

(しかもなんか、チュウチョなく持ってったぞ)

(ぉぅ……触れるのはおろか、見るのもはばかられるのにな……)

(マジ、よくやる……)


 フィッティングルームって入り口がカーテンだから、筒抜けなんだよね。


 聞こえてる聞こえてる、みんなの声。


(女性向けの専門ショップならいざしらず、ここは『女装男子向け』だしね)


 すかさず、雪人さんがフォローを入れてくれている。


 そんなやり取りを聞きながら、『しの女』の制服を、脱ぎ脱ぎ。


 キャミも脱いで、上げ底を外して、ブラも取って。


 新しいブラを、装着。上げ底も付け直して……。


 シャキーン。


「ふむ」


 うん。ばっちし。


 材質が、今着ている夏用のキャミと同じような感じで、その名の通り、涼感抜群。

 ツルっとしていて、とっても肌触りがいい。


 白の無地なのが、ちょっと寂しいけど、学校にも着ていけるなら無理は言うまい。


 柄ものの方は、家用って事で。


 夏の間、着回しする事になるだろうから、みっつ……いや、四つくらいあった方がいいよなぁ。


 母さんに工面してもらってるけど、一応、雪人さんにまとめ買いするからって、相談してみるか。


 その雪人さんが。


(君たちも、試着、してみる?)


 ぉぅ。またぶっこんでますね。


(え!?)

(それは……)

(いやでも、こんな経験……)

(うーーむ……)


 あはは。戸惑ってる戸惑ってる。


 ウチも、玄関前の女子高に通う事になってなければ。


 女性用の下着とか、服とか。


 文字通り、触れる事もなかっただろうし。


 ね。


 さて。


 試着は済んだので、リバースお着換え。


 服を元に戻して、店内に戻る。


「いいですね、これ。柄違いで四枚、欲しいんですけど」

「お。まいどあり~」

「で、モノは相談なんですけど……」

「あはは、了解了解、じゃあ、えっと……」


 ウチと雪人さんの会話を遠巻きに見てる友人たちに。


 まだ手に持っていた涼感ブラを胸元に掲げて、ちょっと小首をかしげて。


「試してみる?」



 固まる、四人。



「真綾くん、それ、反則だよ?」


 代わりに、雪人さんが。そして、続けて。


「四枚でこれでどうかな?」


 電卓をウチの前へ。


 表示された金額と、手に持ったブラのタグの単価を見比べて安産……じゃなくて、暗算してみると。


「うわ、いいんですか?」

「お得意様だしね」


 にっこり、雪人さん。


 ウチも、にっこり。


 しかし、四人は。


(おい、ヤバくないか)

(うん、ヤバい)

(ヤバすぎだろ……)

(やっぱりオレ……)

(マテ、山田、逝くな)

(オレも……)

(やめろ、若林)


 後ろ向きになってボソボソ、と会話しているみたいだけど。


 聞こえてるからね?


 それは放置しておいて、雪人さんと商談を進める。


「えっとカラーはどれにする?」

「白が二枚と、水色二枚でお願いします」


 夏休み中はともかく、学校が始まってもまだしばらく暑いだろうし、学校用の白も用意しておかなくちゃね。


「水色が在庫一枚だけだな……」

「あ、じゃあ一枚は別の色でもいいですよ?」

「ピンクとイエローならあるね」

「じゃぁ、ピンクで」


(ピンクっ!?)

(ピンク……)

(ピンクのまぁや……)

(ピンクマーヤ……)


 面白いな、こいつら。連れて来て正解だったか?


 下手なトコロに遊びに行くより、よっぽど。


 楽しかろう?




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