第51話:ぱっつん子先輩と、お買い物
土曜日。
午前中は、母さんの家事手伝い。
お昼を食べてから。
「じゃあ、行って来ます」
「え? その格好で行くの?」
あ。
そうだった。
今日は、男装して行くんだった。
ってか。
男装って何だよ!
普通の男の格好だよ?
あわてて、男子の服に着替えたのはいいけど。
うぅ……
『慣れてくると、ね。着けてないと、不安になるよ?』
ユキトさんのおっしゃる通り……。
慣れって、怖い……。
「じゃ、じゃあ、行って来ます」
「はい、行ってらっしゃい。気を付けてね」
駅前でぱっつん子先輩と、待ち合わせ。
先輩は、制服。
一応、八時間目の課外授業の一環、ってことで。
「おまたせ」
「ウチも今来たとこですよ」
ちょっと危なかったけど、ギリ、なんとか。
「じゃあ、買い出し行きましょうか」
「う、うん……」
若干、引き気味なぱっつん子先輩が、ウチから離れて歩く。
「どうかしました?」
「やっぱり、慣れないわね……男子の格好だと」
あー……。
やっぱり?
おさげ子先輩もだったけど、男子が苦手って言うのは、根深いのかな。
「まぁ、その練習でもある訳ですし?」
「それは、そうなんですけども、ね?」
若干、近寄ってくれたものの、
少し距離はとりつつも、前後に並んで歩き、スーパーへ。
「肉じゃがでいいですかね?」
「ええ、例の『甘いニンジン』込みでお願いしますわ」
「はいはい、っと。じゃぁ……」
一応、料理の基本として、素材の選び方。
まぁ、量販スーパーに並ぶ材料なので、たいして違いがある訳ではないけど。
その中でも。
形や色、つや、持った時の大きさと重さなんかで、ある程度の見分け方を。
「……本当に、女子力、高いですわね?」
「まぁ、料理は男子女子、関係ないと思いますよ?」
ウチだけかもしれないけど。
最近は、他のご家庭でも、わりと?
職業料理人になると、男の方が多いような気もするし、ね。
意外と。
女性の方が、そういった部分にこだわってたりするのかな?
女子力、と表現するくらいだもの、ね。
そんな風に話ながら買い物をしていると、また少し、距離が縮まる感もあり。
買い物を終え、スーパーを出る頃には。
入った時よりも、わずかに。
エコバックふたつ。
それぞれ、ひとつづつ、手に。
我が家へと。
「ただいま」
「おかえり、お疲れさま。暑かったでしょ? 少しゆっくりしなさい」
母さんが出迎えてくれて。
冷たいお茶なども用意してくれる。
「ありがとうございます」
入学して、もう三か月。
春から初夏へ。
この頃は、天気がよければ日中は下手すると、夏日にも届く。
「そういえば、もうすぐに期末試験ですわね」
「ですねー」
「のんびりしていて、大丈夫ですの? よかったら、勉強、お教えしますわよ?」
冷たいお茶で喉を潤しながら。
「あー、ウチ、そこそこなんで、大丈夫ですよ。なんたって、男子で一番の成績ですからね」
「それはそれは、すご……く、無いですわよね? 男子、ひとりきりじゃないですか」
さすがに気付くか。
「まぁ、女子に混ざっても、そこそこだと思いますよ?」
『しの女』は、成績順位の開示はしておらず。
平均点のみ、公開。
中間試験の成績は、平均点をかなり上回っていたし。
まぁ、授業をしっかり聞いて、復習してれば、大きく外すことは、無いからね。
「さて、じゃあ、そろそろ、仕込み始めましょうか」
「ええ、是非、よろしくお願いしますわ」
ぱっつん子先輩の、料理教室。
いあ、先生はウチと母さんだけど。
はじまり、はじまりー。
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