第37話:おさげ子先輩とランジェリーショップ



 中原『おさげ子』ツグミ先輩と、休日の繁華街。


 駅ビルをウィンドウショッピングして、お昼に天丼を食べて。


 駅のコンコースを歩いて、駅の反対側へ向かう。


 ふたりきりで、おさげ子先輩の口調を学習する、と言うのが、本日の目的。


「先輩、待って下さいぃ」


 すたすた、すたた、と、先を歩く先輩に。


 スカートで『女の子らしく』を意識しながら追従するのが、困難。


 いっそ、素の男モードで?


 そんな事をしたら、悪目立ちして注目を浴びてしまうかも?


 ぶるぶる。


 恐ろしや。


「ん? どうしたの?」


「いえ、実は……」


 ウィンドウショッピングの最中は店の中、商品とかを見ながらだったので気にならなかったけど。


 移動だけを目的に歩いていると。


 そして、意外とおさげ子先輩の足が速いのも。


「そっか、気付かなくてごめん」


 普通は。


 男子の方が女子の歩く速さに合わせて、とかは聞いたコトがあるが。


 うぅ……。


 先輩の横について、歩く。


 先輩もちらちら、と、ウチの方を確認しつつ、歩いてくれて。


 コンコースを抜けて、階段を下りて、適当にブラブラしようと思ったら、いきなり。


 ブラ屋さん。


 じゃ、なくて。


「へぇ、こんな表通りにランジェリーショップがあるのね……男の子が前、歩きにくいんじゃないかしら?」


 デスヨー。


「入ってみる?」


 明らかに、微笑みながら。


 からかわれているのは、わかる。さっきの駅ビルの方でもあった。


 でも。


 女の子、なら。


 どうどう、と。


 女の子用のショップへ。


「は、はい!」


「え? いいの?」


「は……はい……」


 と、答えたのはいいものの、やっぱり。


「無理してる無理してる」


 笑われるけど。


「は、入りましょうっ」


 と。


 男は度胸。


 いや。


 オンナは度胸?


 入ってみたはいいものの。


 やっぱり。


 自分の下着で少し慣れた、とは、言え。


 うぅ。


 目のやいばに困る、困る。


 ぐるぐる、と、目を逸らして、見ていて、ふ、と、気付く。


「高っ!?」


 思わず、声に出てしまって、あわててクチを手でふさぐ。


「あー、これ、普通のランジェリーじゃなくて、矯正用みたい」


 きょうせい用?


「ボディラインを強制的に矯正する、下着、ね」


 あぁ……そういうのも、あるんだ……。


「値段的にも、わたしらにはまだ必要ない、かなぁ」


「そうですね、学生さんでも求められる事もありますけど、おふたりには必要なさそうですね」


 ぎゃー。


 店員さんに声をかけられてしまった。


 しかも、こちらの会話を聞かれた上で。


 ぎゃー。


「あはは。ですよねぇ……お邪魔しました。また、いつか機会があれば」


「はい、是非」


 おさげ子先輩が店員さんに対応してくれて。


 そそくさと、お店を出ながら。


 やっぱり、入るんじゃなかったと。


 後悔しきり、赤面しきり。


「さて、次はどこ行こう?」


 と、歩き出してすぐ。


「あ」


 横に並んで歩いていたおさげ子先輩が。


 何かから隠れるように、ウチの後ろに、ぴたっと。


「!?」





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