第38話:おさげ子先輩たちの昔話



 駅の東口に移動して、ランジェリーショップ……矯正下着のお店から出て、歩き出したところで。


 横を歩いていたおさげ子先輩が、オレの後ろに。


 何かから隠れるように。


 あ。


 あれか……。


 前の方から、ウチらと同じ年頃の男子、三人組。


 歩道に横並びで広がって、ワーキャー言いながら歩いて来る。


 ウチも歩道の脇に寄って、おさげ子先輩をかばう様、立ち止まる。


 そして、その三人組をやり過ごす。


 目を合わせないように、遠くを見るフリをしながら。


 すれ違う時、ちらっと……いや、わりとガン見された……。


 そして、彼らが通り過ぎた後。


「今の、『しの女』の制服じゃね?」

「だよな、部活かなんかか」


「前の子、カワイかったなぁ」

「後ろの子の方が可愛くね?」

「いや、断然、前の子でしょ」


 ウチらが歩き出しても聞こえる程に大きな声で。


「……」


 その三人組から逃げる用に、おさげ子先輩が速足で歩き出す。


「あ、先輩、待って下さいよ」


 あわてて追いかける。


 歩き辛いけど、がんばって。


「ふぅ……」


 少し進んだ路地の角、おさげ子先輩がやっと立ち止まってくれたので、追いついて。


「やっぱり、まだ男子は苦手だわ……」

「ウチでだいぶ慣れたかと思いましたけど」

「園田氏は、半分以上女の子だしねぇ……さっきのヒトたちも……」


 あ……。


 少し苦しそうな表情だったのが、コロっと変わって。


 笑いながら。


 また、歩き出しながら。


 今度はゆっくりと、並んで。


「二対一で、わたしより園田氏の方がモテモテだったし」


「いや、いや、そんなはず、ないでしょ。前の子とか後ろの子って言ってたし、どっちがどっちかなんて」


「わたしの前に立ってたのが、園田氏。園田氏の後ろに居たのが、わたし、でしょ? ほら、わたしのこの髪型、けっこう野暮ったいし、ね」


 そう言われると、ぐうの音もでない。


「お、男に可愛いとか言われても、嬉しくないですよ……」


「あはは、いいじゃん?」


 気が付くと、繁華街の外れまで歩いたらしく、お店もほとんど無い場所。


 ただし。


「ちょっとそこで休みましょうか」


 ちょうど目の前に、カフェ……と、言うか、喫茶店があったので、そこへ。


「わたしはブレンド、ホットで」

「あ、ウチも同じで」


 他に客の居ない店内。


 テーブル席でコーヒーを注文して。


「女子ばかりの学校で過ごして、男子に慣れていない、ってだけじゃなさそうですね」


 さっきの怖がり具合。


 あの三人組以外にも、男性とすれ違ったりしていたが、そこまで怯える事はなかったはずが。


 あの三人組に、何か?


「あー……実は、ね……」


 あまり話したくないのかなとも思ったけど。


 おさげ子先輩が語ってくれた、幼い頃の話。


「小学校低学年ぐらいの時に、サクラとミリと三人で休日に遊んでて……」


 迷子になった、と。


 知らない場所で不安になって、金髪子先輩が、泣き出して。


 ぱっつん子先輩と二人でなだめていたら。


 見知らぬ大人の男性二人に声をかけられた、と。


 『知らないヒトに付いていっちゃだめ』


 定番の、教え。


 それを守って、声をかけてきたヒトから、逃げる。


 逃げたら、追いかけられる。


 逃げても、逃げても、追って来る。


 どうにか、逃げ延びたけれど。


 その時の恐怖心から。


「まぁ、後からわかったんだけど、その二人って、おまわりさんだったみたいなのよね」


 なるほど……。


 途中でコーヒーが来たので、それを飲みつつ。


 ゆったりと、おさげ子先輩の話を聞いて。


「迷子になって、ミリも泣いてたし、保護するつもりだったんだと思うけど」


 けど。


 恐怖心は恐怖心として、残った、と。


「まぁ、そんな話……」





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