第34話:慣れない喋り方



 女装専門ショップから戻って。


 母ちゃ……じゃなくて、母に店長さんとのやりとりを報告したらば。


「なるほどねぇ、ちょっと違和感あるけど、まぁ、スグ慣れるでしょ、お互い」


 わりと呑気めな、母さん。


 ついでに、注文した例のブツ……おほん、品物の代金をせし……請求したらば。


「何それ、何これ、可愛い……けど、何、この模様……」


「店長さんのお薦めだそうで」


 現物は取り寄せ中、なので、お店のサイトの商品紹介を見ながら。


「ふーん……よぉっし、お母さんも同じの買っちゃおっと」


「え? マジ? なんで?」


「娘と一緒に楽しくためよー」


 いらねーっ!


 じゃ、なくて。


 いらないよーっ!



 はぁ、はぁ。



 やっぱり、まだ慣れないけど。


 頭の中で、心の中で。


 考える時も、なるべく、丁寧に、ていねいに。


 はうぅ。



 と。



 違和感を持たれるのは、母さんだけではなくて。


 いや。


 一番、違和感持ってるのは、ウチ自身なんだけど……。


 ウチや母ちゃん以外でも。


 意外でもなんでもなく。


「ん? ん? ン? ンんん?」


 言わずと知れた、三先輩、プラス、ロリ先生……じゃなくて、エリ先生。


「どうかしました?」


「いや、まぁ、何と言うか……」


 おさげ子先輩。


「何か問題でも?」


「問題はありません、けど……」


 ぱっつん子先輩。


「けど?」


「正直、キ……」


 金髪子先輩が何か言おうとしたところで、いつもの。


「いひゃいいひゃい、ひゃくりゃはぁああ」


 ぱっつん子先輩の金髪子先輩ヒネリ。


「もぉっ、キレイな言葉遣いになったね、って、言おうと思ったのにぃ」


「紛らわしいですわっ!」


 このふたりの先輩の掛け合いも、慣れてきたけど、おもろ……面白いですね。


「でも、女性らしい、と、言う感じじゃぁ、ない、わよねぇ……」


 まぁ、そうなんですよねぇ……。


「必要以上に、疲れるんだよなぁ……」


「あ、戻った?」

「地が出てますわね」

「崩壊?」

「んー……これが一番難しかったかぁ……」


 ですよ、ですよ、先生、ロリ先生。改め、エリ先生。


 いや、エリ先生が本当で、ロリ先生は別称と言うか、蔑称か?


 まぁ、そんなこんな。


 オレ……じゃなくて。


 ウチを『女の子らしく』と、各先輩方が出してくれやが……くださったアイディアをその通りにこなして、それなりの見かけを確保。


 でも。


 唯一、エリ先生のアイディアが。


「やっぱり、一番、難しいですね……」


 ユキト店長のおっしゃっていた通り。


 語尾や言い回しを、女性らしくしたところで。


 声質……低い声自体が、オトコそのものなので。


 それを、女性らしく、と言うのは難しい。


 そうなると、声質と、言葉遣いのギャップが大きくなりすぎる。


 オトコの声と、女性的なみかけ。


 この乖離をわずかでも軽減するには、できるだけ丁寧な、キレイな言葉遣いにするしか、ない、と。


 ん、でも。


 ユキト店長ぉおおおおお、やっぱり難しいです……。


 ユキト店長は、違和感なかったなぁ……。


 もともと、純粋な男子の状態の時から、そういう喋り方だったらしいし。


 うぅ、生まれと言うか、育ちも大きいよねぇ。



 でも、まあ。


 焦らず。


 幸い。


 まわりには、ほぼ、女性しかいらっしゃいませんので。


「そういう意味では、わたしの口調が一番、フラットで参考になるかも?」


 その女子の中のひとり。


 おさげ子先輩。


 そう言われてみれば、おさげ子先輩の喋り方って。


 たまに語尾が女の子っぽくなるけど。


 断定的な、中性的な、喋り方、だったか?


 ほぅ……。





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