第33話:女装男子の話し方極意



 ウチの相談、『女らしい喋り方・思考』について。


 女装男子店員さんは。


 『必要ない』と。


 ばっさり。


「必要無いは言い過ぎかもしれないけど、女の子の喋り方に寄せる必要はないって感じかな?」


「??」


「えっとね……」


 ウチのキョトン表情フェイスを見て察してくれたのか、解説が続く。


「声質の問題もあってさ、女の子の喋り方に寄せると、悲しいかな、自分でも正直、気持ち悪いんだよね……」


「あー……」


 わかる。


 トリハダもの。


 実際、立った、立った、トリハダ、立った。


「まぁ、ボクの場合、もともとこういう喋り方だったからよかったところもあるけど」


 あ。


「じゃあ、普段からそういう喋り方で?」


「うん、接客用に丁寧に喋ってる、って部分もあるけど、普段とさほど変わんないんだ」


 顔を見ながらだと、美人のお姉さんが、男性の声で喋っている違和感もあるが、男らしいかと言われると、そんなことはなく。


 合わせると、中性的な、フラットなイメージに落ち着く。


「だから、語尾とか無理矢理女の子っぽくするんじゃなくて、普通に、ていねいに、優しい言葉使いをすれば、ね?」


「なるほど……」


「まぁ、家族と居ると、オトコの地が出るコトもあるけど、ね」


 苦笑する店員さんも、なかなか魅力的だなぁ。


「女性の真似をして、女性らしくって思っても、結局、オトコであるコトは変えられないからね……女性になりきることは、不可能だし」


 性転換手術って選択肢も無くはないけど、と、補足されるが。


 店員さんも、ウチも、そこまで望んでいる訳ではなく。


 違和感のない程度で、女の子を演じられれば、それで。


 ずず、と、コーヒーをすする店員さん。


 つられてウチもコーヒーにクチをつけて。


「どう? できそう?」


「あ、はい、ちょっと難しいところもあるかもですけど、それなら、なんとか」


「ん、なら、がんばって、ね?」


 理屈は、わかった。


 オレ、と言う思考を、どこまで、ウチに寄せられるか?


 今までのコトがあるから、矯正は難しいかもだけど。


 完全な女言葉や思考にするよりは、はるかに気が楽だな。


「はい。ありがとうございました。突然、すみませんでした」


 立ち上がって、お辞儀して、きちんとお礼。


「いえいえ、どういたしまして。また何かあったら気軽に相談してくれればいいから」


 店員さんも立ち上がって、挨拶を返してくれる。


 社交辞令かもしれないけど。


 コンコン。


 ちょうど、そこへ、ドアのノック。


「はーい、どうぞ」


 入って来たのは、奥さん。


「雪人くん、お客さんが相談したいことあるって、いける?」


 あ。


 ユキト……って、このお店の名前じゃん。


 つまり、と言うか、やっぱり、この店員さんは店員さんじゃなくて。


 店長さんだったっぽい。


「はーい。じゃあ、またね」


 店長さん、ユキトさん。奥さんとウチにそれぞれ声をかけてお店に戻る。


 別のお客さんのお相手。



 実は、もうひとつ、相談事が。



 接客が終わるのを、お店の中、少し離れた場所で並んだ商品やらを眺めつつ、待機。


 って、並んだ商品見てたら『使えそう』なものがわりとあるな……ふむ。


 あれこれ、思案していると、店長さんの接客も終了。


「あれ? まだ何か?」


「実は、もうひとつ相談がありまして……」


「?」


 そっちの相談事の方は。


 最終的には、このお店の売り上げにも少し貢献。


 在庫の無いものは取り寄せてもらえる、ってコトで。


 入荷したら連絡を貰えるようにメッセージアプリのIDを伝えて。


「じゃあ、すみませんけどよろしくお願いします。今日はいろいろ、ありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ、またよろしく、ね?」


 取り急ぎ。


 母ちゃん……違うな……母さんに、報告、だなぁ。


 あと、注文した商品の代金、せしめよう。





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