第28話:女の子はいろいろと大変なのね



 季節は、梅雨。


 中間試験も終えて、試験期間は中止されていた七時間目、八時間目の授業も復活。


 先だって、もう一つのイベント。


 衣替え。


 制服のデザイン自体は大きく変わらないが。


 半袖になって、生地が夏用の薄手のものに変わる。


「母ちゃん、後ろ、ちょっと見て。ブラ透けてない?」


 冬服の時には気にならなかったんだけど。


 夏服になって、ものすごく、気になる……。


「んー……まぁ、猫背になると、ちょっと形が浮かんじゃうけど、背筋を伸ばしてたらそれほど目立たないわよ?」


 見て、って言ったのに、見ずに答える母ちゃん。


 まぁ、『しの女』のOG卒業生だし、そこら辺はよくわかってらっしゃる、ってコトか。


「色も白ならほとんど気にしなくていいわよ。どうせ女同士なんだし」


「ちげーよっ!?」


 母ちゃん、すでにかなり、もう。


 オレのコトを娘だと思い込んでるフシが泣きにしも、在らず。


 いや、正しくは『無きにしも非ず』なんだけど。


 なんとなく『泣きにしも』だよ。


 それはともかく。


 そりゃ、女子高で、女同士でブラ透けとか、さほど気にはならないだろう。


 なんなら、体操服やらに着替える時に見えるし、見せあったりもするんだろう。


 タブン。


 まぁ、女同士でも恥ずかしいって子も居るかもだけど。


 さすがに、そんな女子高ならではの、女子更衣室のプレイ……じゃなくて、内情は、露知らず。


 あ。


 梅雨。


 なので、その体育は、グラウンドが使えないコトが多くなり。


 必然的に、体育館の中。


 もしくは、道場で柔道。


 生徒手帳にも書いてあったけど、『文武両道』を地で。


 学業の方もしかり、一年生では柔道、二年生では剣道。三年生は柔道か剣道か選択だそうで。


 さすがに胴着を個人で買って用意するには負担が大きいってことで、学校側で胴着を用意して流用してるらしいけど。


 柔道着は、買わされた……。



 そのお着換えも、いわずもがな、校内唯一の、男子トイレ、にて。


 着替えてから体育館の二階にある道場までダッシュ競歩。


「はぁ、はぁ、間に合った……」


 他の体育の時もそうだけど。


 『二人一組』になる場合、オレは先生と組むコトになっている。


 先生もまぁ、女性なんで、オレの方はちょっと気後れとか遠慮とかしてしまいそうになるけど。


 最初の頃から先生の方が。


「構わん。遠慮はいらんからどんと来い」


 みたいな。


 さすが体育教師。


 熱血漢で、漢前。


 いや、女性の場合、どう言えばいいんだ?


 まぁ、クラスメイトよりはマシか、と、その女前の体育教師と。


 今日も道場で、柔道着で、受け身の練習、からの、乱取り。


 ランドリー。


 洗濯場。


 では、なく。


「あ、先生、ちょっとタンマっ!」


「何? どうした? どこか打ったか? 大丈夫か?」


「いえ……その……ブラの中身がズレて外れそうなんです……」


 一応、オレのコトは教師全員に通達されていて、状況は理解してもらっているため。


「……直してこい」


「はぁい」


 こそこそっと、道場の隅に移動しようと思ったら。


「ちょっと待て。それ以前に、スポブラ使ってないのか?」


 先生に呼び止められた。


「え?」


「運動する時用のブラジャーだよ。スポーツ用のブラジャー。他の体育でもそうだが、柔道になるとかなり揺れるからな。女子はだいたい体育の授業の時はスポブラに着替えてるぞ?」


 そ。


「そうなんっスね……」


 女の子って、いろいろと面倒なんだなぁ……。


 それもあるけど。


 金もかかるなぁ。


 とりあえず、母ちゃんに相談してみるか。



 とほほ。






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