第21話:不思議な夢をみたんだ



 朝。


 目が覚めて、不思議な夢の事を思い出しながら、モーニングルーティンの最後。


 リビングで母さんに『おはよう』したら。


 母さんが、不思議な表情で。


「……あなた……誰?」


 え?


「え?」


 母さん、何を言ってるの?


「母さん? 大丈夫? あたしよ。娘の顔を忘れたの?」


 不思議な顔を崩さない、母さんが、不思議な声で。


「わたしに娘は居ないわ……娘のような息子……あなたと同じくらいの歳の男の子なら居るけど……」


 え?


真綾まあや……真綾はどこ?」


「真綾はあたしだよ? 母さん?」


「だから、うちの子は男の子だから……女の子のあなた……確かに、真綾に似てるけど、女の子、でしょ? 一体、誰なの? どこからこの家に入り込んだの?」


 話が、かみ合わない。


「真綾。真綾はまだ寝てるのかしら? ちゃんと、居るのかしら」


 急に不安そうに。


 駆け出すように、二階の部屋へ向かう、母さん。


 あたしも、母さんの後を追って、あたしの部屋へ。


 ゴンゴン、と、母さんがあたしの部屋のドアをノックして。


「真綾。真綾。まぁや、起きてる? 真綾、居るの? 真綾」


 お母さんは少しパニックになっている様子。


「開けるわよ」


 あたしの部屋に鍵は付けていない。


 母さんと二人暮らし。


 女の二人暮らしな事もあって、家の中でカギがかかるのはトイレとバスルームくらい。


 もちろん、玄関や勝手口の扉には鍵があるけど。


 そんな鍵のないあたしの部屋の扉が。


 開かれると。


 そこには……。




「真綾、真綾、大丈夫?」


 ん……。


 母ちゃん?


 珍しいな……母ちゃんにゆり起こされる、なんて。


「おはよう?」


「もぅ……起きて来ないから心配したわよ。寝坊なんて珍しいわね。体調でも悪いの?」


 オレの額に手を当てて、熱が無いか確かめる母ちゃん。


「ん……熱は無いようね。具合が悪いんなら休んでもいいけど?」


「あ、いや……」


 そう。


 何か、変な夢を見たような気がするけど。


 多分、その夢のせいで寝過ごしたのかな?


 ベッドから降りて少し身体を動かしてみて。


 特に身体に問題はなさそう。


「大丈夫みたい。ごめん、母ちゃん。ありがと」


「そ? だったらいいけど……学校行くなら、早く仕度しなさい。結構、いい時間よ?」


 言われて時計を見ると、確かに。


 やばいまでは行かねど。


 以前なら余裕な時間ではあるが。


 今は。


「了解。着替えるから……」


「朝ごはん、用意できてるから、早めに、ね?」


「うん」


 母ちゃんが部屋を出て、扉を閉めてから。


 パジャマ代わりのショーパンとTシャツを脱いで、下着姿に。


 意味の無い、意味不明なナイトブラ……夜用のブラジャーを脱いで。


 そして無意味な、ハラマキみたいなショーツも脱いで、校則違反にならない白ショーツに穿き替えて。


 ブラも白を装着。


 カップの中に買って来た物体オブジェクトを収めて……。


 一旦、ショーパンとTシャツを着直して、ナイトブラとハラマキみたいなショーツ、それからウィッグを持って、一階へ。


 洗面所でショーツ、それにブラをそれぞれ洗濯ネットに突っ込んで洗濯カゴへ。


 歯磨き、洗顔を済ませて、軽く髪をなでてからヘアネットを被って、その上からウィッグを着けて。


 ブラシで髪を整えて……。


 こういった、男とは少し違った処理が。


 女子力? と、言うのであれば。


 いや、ホント、ご苦労様、としか。


 そして、それを真似る、オレ。


 オレ自身、ご苦労様。


 ご苦労様を終えて、自分の部屋に戻って、制服……しの女の独特のセーラー服に着替えて、また一階へ。


 ダイニングテーブルで先に朝ごはんを食する母ちゃんの前に座って。


「いただきます」


 母ちゃんの作ってくれた朝ごはんを食べながら。


 さっき見ていた、不思議な夢を少し思い出してみる。


 だけど、ぼんやりと、霧散むさん


 夢だけに、夢散むさん、か?


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