第3話:八時間目の授業
結局。
三年間の通学の面倒くささを考えれば。
玄関ダッシュ五秒の通学との比較にならず。
女子用の服を着るのも学校の中だけと言うならば。
その状態で外出することもあるまい。
通学で外に出るとしても、徒歩で一分かからない。
ダッシュすれば五秒だ。
結論。
「この学校に入学します」
「ほんとにいいのね?」
母ちゃんも念押し。
「いいんだね?」
理事長以下、略。
「はい」
こうして、オレはエセ共学化された『元』女子校の『東雲女子高等学校』への入学を決めた。
入学手続き諸々と並行して。
制服の手配。
既成のサイズでは男子のオレに合うものがなく。
採寸からの完全オーダーメイド。
メイドって言っても給仕さんじゃないぞ?
カフェでもないぞ?
オレの身体に合わせた、オレだけの、制服。
濃紺のラインが散りばめられているが、基本、真っ白なセーラー服。
お嬢様学校と名高い『しの女』の、清楚を絵に描いたような、制服。
幼い頃から家の前、近所で。
見慣れた制服。
まさか自分で着る事になるとは、夢にも思わず。
下着に関しても。
母ちゃんが『一緒に買いに行こう』と薦めて来るが『
いや、ショップに行かないまでも。
母ちゃんと、女子用の下着の通販サイトを見ながら『これかわいいよ』『かわいさんなんか求めてねぇ!』とか言い合うのも赤面しきり。
いや、まあ、なぁ……もぅ……。
くじけそうにもなりながら。
届けられた制服を、下着を着てみたりするが。
「ブラのホックってどうやって止めるんだ……」
結局、前後ろを逆にして、胸元でホックを止めてからくるっと回転させてやれば簡単だってコトが解かったので、それで。
ブラの上から、キャミソール。
普段着ているシャツとはまた違うすべすべした肌触りに違和感はあるも、決して、不快なものではなく、むしろ。
パンツにおいて、おや。
あぁ、パンツじゃなくて、ショーツ?
まぁ、なんかそんな感じで、なんとか着替えて母ちゃんに。
「どうかな?」
「おぉっ、似合って……る?」
「疑問形かよっ!?」
まぁ、言いたいことは、わかる。
姿見に映った自分の姿を見て『これは無いな……』と、思ったし。
それもあるが。
下半身が下半身が。
こんなにも心もとないもの、よく履いてられるよなと実感。
なんか中が見られそうで怖い。
そう、その中も。
普段、トランクスなので、ぴっちりとしたショーツが。
なんか窮屈な上に、下手をすると、はみ出してしまいそうで。
そんなものを見られた日には。
ぶるぶる。
考えないようにしよう。
自分では鏡を見ない限り自分の姿は見えない。
他人にどう見えようが、知っちゃこっちゃない。
三年間、我慢すれば……ある意味、周りにも我慢してもらえば。
そう、思って、泣く泣く。
女子の格好で通学を始めた訳ではあるのだが……。
オレはまた、呼び出されていた。
ほぼ女子校にひとりだけ存在する男子として。
特別な授業がある、と。
六時間の授業の後。
本来ならば、放課後。
ちなみに。週一回だけ、七時間授業のある日があるので。
「では、八時間目の特別カリキュラムをはじめたいと思います」
教壇に立つ教師。もちろん、女性。
その前に座る、三人の生徒。
もちろん、女子生徒。
そのずーっと後ろに、オレ。
女装した、男子。
オレ。
何がはじまるの??
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