黒幕と後輩
(渡したいものって何だよ……。それに伝えたいことって何なんだ?)
向かう先は、昨夜のメッセージで後輩に指定された場所。
近所だったので案外早く着いた。
少し余裕をもって出かけたつもりだったが、すでに彼女がいた。
「おはよう」
久しぶりに会う彼女に声を掛ける。
振り返った彼女はびっくりしたような表情をしながら小声で「おはよう」と言った。
急に後ろから声を掛けて驚かせたことを申し訳ないと思ったが、彼女の様子に違和感を覚える。
(単に驚いただけには見えないな……)
彼女をじっと見つめていると「なにか気になることがあるなら言って?」と。
同時に普段と違うオーラを放っている。
俺は後輩から何を言われるのだろうか。
「いや……なんでも。で、伝えたいことって何?」
さっそく本題へと切り出す。
「はい。プレゼント」
そう言って渡されたのはクッキーだった。
「なんで急にプレゼントなんだ?」
「これを見て気づくことない?」
「クッキーだな」
「だね」
求められていた解答と違ったらしい。
「他には?」
「ハワイとかで売ってそうなクッキーだな」
「うん。てことは?」
「…………」
(どういうことだ? 分からん……)
俺の沈黙に呆れてか彼女が解説していく。
「エイプリルフールの日、覚えてる?」
「ああ、告白されたな。今年も」
「他には?」
「えっと……他には……?」
他になにかあっただろうか。
「私はどこに行ってたでしょうか」
「…………海外!?」
「正解でーす」
視線は手で小さく丸を作る彼女を向いているが、全く頭に入ってこなかった。
(えっ、えっ、えっ、あれ、嘘じゃなかったのか……)
「大丈夫? 正解だよ。だからクッキーをあげましょう」
もう一度目の前に差し出してくる。
「マジか……」
「マジだよ! それでもっと重要なことがあるんだけど分かる?」
「分からん」
「いや、もうちょっと考えてよ……。まあいっか、ヒントね、
(そういうことだったのかよ!)
「どういうことだ?」
分かっていながらも尋ねる。
彼女の口から言わせたい。
しばし彼女は顔を赤らめた後、覚悟を決めたのか――
「言わせたいだけでしょ」
ジト目が突き刺さる。
(見抜かれた)
告白してくれなかったがまあいい。こっちにはまだ作戦がある。
(こっからはいつもからかわれてる俺の仕返しだ!)
「……。そうだ、言わせたいだけだ」
「ほら」
「あ!」
「なに?」
怪訝そうな顔をされるが気にしない。作戦だからな。
「今思ったんだけど……、
少しためたのちに続ける。
「
「あっ……」
今さら気がついたらしい。
いい反応だ。
(よし、追い打ちだ!)
「エイプリルフールに告白できないからってそうしたんだろうが……失敗だったな。で、何を伝えたかったんだ? いや、言えないか。最後の告白って言ってたしな」
「もういい!」
「じゃあ、付き合わなくて良いんだな」
「嫌い……」
好きじゃないのか、と言いかけたところでこんなつぶやきが。
「(何でこんな人を好きになったんだろ……)」
からかいすぎて嫌われそうだが、ともかく――
(しばらくはこのままの関係が続きそうだな)
目の前にいる後輩を見つめながら思った。
(しっかし、誰が吹き込んだか)
いくら性格の悪い後輩でも、彼女自身が考えて実行することはないだろう。
裏で彼女を告白させようとした人物は誰なんだろう。純粋な疑問だ。
経緯を知りたい。
陰ながら付き合うように画策してくれたのは正直ありがたい。その誰かに心の中で感謝を伝えておく。
まあ、恐らく近々会うことになりそうだが。
というか、近くに潜んでいたりして……。
それらは気になるところではあるが、考えるのをやめた。
だって、
初めて見た後輩の悔しそうな表情。それは付き合い始めてからも忘れることがないだろう。
エイプリルフールのラブコメ。 あるふぁ @Alpha3_5_7
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