メッセージの裏で

「今年もエイプリルフールの日なの?」


 エイプリルフールが三日後に迫ったこの日、私は去年と同じことを言われていた。

 一見、言葉足らずに聞こえるかもしれない。

 そんな言葉も私には意味がよくわかった。


「うん」


 少しお節介な母親に去年と同じ返答をすると、去年と同じような顔をしているのが分かった。


「今年もなんだねー」


 続きは言わなかったけれど言いたいことは分かる。

 四年間も先輩に同じことをしているのだから。

 それも、エイプリルフールの日に。


「そういえば、旅行行くことになったから。明日から」


 唐突なことに思えるが、我が家ではよくあることだ。


「どこ?」

「ハワイ!」


 ニコニコした顔で答える。

 嘘には見えないし、当然今日はエイプリルフールでもないので驚くほかなかった。

 呆気にとられている私をよそに言葉を続ける。


「だから――服とか詰めてね」


 キャリーケースが目の前に出される。

 少し前から気になっていたが海外旅行に使うとは……


 ツッコみたい気持ちは山々だが、暴走している母親を止める手立てはないので、大人しく従う。



「告白、頑張ってね!」

「ハワイ行くんじゃないの?」

「そりゃ行くけど。一年くらい前から計画してたし! ハワイからメッセージを送って告白するってこと」


 首をかしげていると「四月一日はハワイでは三月三十一日だからね〜。あとは分かるよね」と。


 分かってしまった。その意図が。

 計画していたのは本当だろう。

 これを三月と四月の間に計画にしたのは、絶対意図があってのことだろう。


(どうせ誤魔化すことは許されないどろうな〜)


 私は誤魔化すことを諦め、指示された通りにメッセージを送ることにした。



 ◇



 三月三十一日。日本では四月一日エイプリルフール


「いま旅行中なんだけど、どこ行ってるかわかる?」


 予め用意していた問を送信して、次の文――今朝言われたもの――を打ち込んで待つ。


『どうせ電車で1時間くらいのとこだろ?』

「違うよ。もっと遠いところ」


 ハズレだということを確認したのち、送信。

 確認する必要もないだろうが。


『じゃあどこ?』


 とまたもや想定通りの返信。興味を引くために「海外」と送る。


『なんで』

「家出」

『嘘だろ』

『今日はエイプリルフールだからって嘘付いてるだろ』


 やはり信じていないようだ。まあ、家出はそもそも嘘なのだけども。


「そうだね、今日はエイプリルフールだね」


「日本では」とつけるべきところをあえて書かかない。

 彼が思っているいるであろうことを肯定する。


 そして、先程撮ったスクリーンショットを選択。


 写真の次に告白の文章を素早くペーストしていく。


「そうだ、今日、エイプリルフールだったよね」

「好きです! 付き合ってください」

「どう? 告白は嬉しい?」


『はいはい、そうですか』


 彼は私の告白が本気のものだと知らない。



『ていうか、ちゃんと寝れてるか?』


 話題は予想外のものになった。

 どうやって返そうか少し悩んだ末、「普通だよ」と送信しておいた。

 日本では普通ではないだろうが、ここでは普通なのだから。


『無理すんなよ』


 という彼の気遣いは嬉しかった。

 同時に覚えたのは、彼を騙していることに対する罪悪感だった。






(次話『黒幕と後輩』)

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