第20話

いつも通り、冒険者ギルドは騒がしかったのだが今日はいつも以上の盛りあがりを見せていた。その理由は明白だろう。田舎の町に残っている数少ないシルバーランクのパーティーということもあるのだが、その中でも人気のパーティーに新しい仲間がふえるというのだから。みんなを一目見てやろうと野次馬精神が沸き上がっているのあろう。


当の本人であるケーラはというと、動揺しているのかと思ったらそんなことはなかった。彼女曰く、「見られることに慣れている」とのことだった。そりゃ、可愛かったら見られるのは当然なんだけど、そんなに多くの人に注目されてきたのかと思うと、少し心がモヤっとした。


賑わっているギルドの中を仲間を見つけるために周りをキョロキョロしていたら、後ろから元気な声が聞こえてきた。多分、メアだろう。そう思って振り返ったら、三人ともそろっていたようだ。


「あ、アリアンー。おはようー」


そういって、メアが肩を強く叩いてくる。日に日にこの挨拶の叩く強さが上がってきている気がするんだけど。メアに遅れて、残りの二人が合流した。エリアが横にいる、ケーラに気づいて少し頭を下げた。


「彼女がアリアンが言っていた人だね。リーダーのエリアだ。よろしく頼む」

「アリアンの友達のケーラです。これからよろしくお願いします」

「よろしくな。じゃあ、ちょっと座って話そうか」


その声に合わせて、パーティーのみんなが腰を掛ける。メアはなぜか、顔がこわばっている。俺の横にはケーラとメアだったのだが、メアは小さい声で俺のことを呼んで焦っている顔をした。


「アリアン、聞いてないよ。なんなのよ。このかわいい子」

「それは本人に言ってやって。多分、喜ぶと思うよ」

「言えるか、あほ。ナンパ女みたいになるじゃん」


俺たちがこそこそしていると、リーダーとケーラが同じようなしかめっ面で俺たちのことを見ていた。黙れとのことだろう。メアは背筋を伸ばして怒られた後の子供の用にふるまっていた。


「本題に入るんだが、ケーラさんの職種を聞いてもいいかな?」


エリアは引きつった緊張が表に出ているぎこちない態度をとっている。なんでこんなに緊張してるんだよ。いつもみたいにフレンドリーでいいじゃないか。俺がそんなことを思っていたら、同じように思っていたミラが隣に座っているエリアの肩をたたきながら注意する。


「ちょっと、エリア。なんで面接官みたいになっているんですか?もっとフレンドリーになっているんですか?これから仲間になるんですよ。ほら、ここに来るまでに話し合ってきたでしょ」

「だ、だってだな。緊張するんだぁ」


そう言って頭を抱えるエリア。ケーラは俺に視線を送ってくる。俺に何かできるのか。俺がここで変なちょっかいをかけて、みんなと仲良くなる機会を奪ってもなぁ……。


俺がどうしようか、悩んでいたらメアが叫んだ。


「ケーラちゃん、可愛いよ。可愛すぎるよぉ!」

「へっ!?何を言って…っ///」


そういって、俺越しにケーラの手をつかんだ。いっちょ前にケーラも動揺して情けない声を漏らす。あまり俺の前で百合展開を繰り広げないでほしい。俺では百合の間に挟まる男(物理的)。俺に椅子を後ろにして距離をとっていると、目の前にあった真水を豪快に飲み干したエリアもぶっちゃけた。


「そ、そうだ。メアの言う通りなんだ。すまない。私たちは逃げられたら困ると思って」

「しっかり者に見せようとしたんですよね。それも予想をはるかに超える美少女と。そして緊張が倍増というわけですね?」

「そうなんだ。ただでさえ、斥候なんて少ないんだ。ダメパーティーって思われたら……」


そういってエリアはミラの胸へと飛び込んだ。いや、確実に今のほうがダメだろ。情けない部分、丸出しじゃないかと思っていたら火照りも消えて比較的冷静になっていたケーラが、つい声をこぼしたように、


「今のほうが情けないのでは?」

「「ぐはっ!!」」


エリアとミラにクリティカルヒットした。ケーラはしまったという顔をして、謝っている。エリアとミラが申し訳なさそうに顔を上げた時、メアは嬉しそうに笑いながら言った。


「ツッコミキャラだよ!足らないと思っていたんだぁ。このパーティーはさ私以外おバカさんばかりじゃん?だから必要だなぁって思っていたんだよ」

「いや、最初はメアさんが話を脱線させたんですよ」

「ぐはっ!!」


メアは撃ち抜かれたように、机に突っ伏してしまった。俺がケーラの的確なツッコミに笑いながら、ストップをかけにいく。


「まあ、まあ。落ち着きなよ、ケーラ。面白いメンバーじゃない?」

「そもそもですね?アリアンがしっかりと私を紹介しといてください」

「ぐはっ!」


俺まで飛び火してきた。ケーラ以外が机に突っ伏すという光景を見て周りの人たちはというと……。


「あれは期待の新人だな」

「実力は知らんが、美貌はヤバいな」

「そうか?俺は突っ伏しているアリアンさんにしか目がいかんが」


おい、まだいるんか。俺のガチ恋勢。俺が男だってばれたらあいつに殺されそうだな。



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