第17話
教会を訪ねる長椅子の端のほうにちょこんと腰かけた金髪のお姉さんが目に入った。やはり彼女は絵になるな。
「エリアー!元気になったのね」
嬉しそうにメアがエリアに近寄っていく。子供のようだ。まるでこれは親子の感動の再会……。これは泣け、、、
俺がそんなことを考えていると、メアはそのスピードを緩めて俺のほうを見た。
「え?アリアン。なんか、失礼なことを考えてない?」
「ぼ、僕はそんなことは……それよりもエリアのところに行ってあげて」
「へ、へー。おれならいいけどね。エリアー!」
気合を入れなおしてメアはエリアのほうに走っていった。そのまま抱きついていた。
これはメンバーとして許可されるのか、俺も走っていったら許されるのか。行けばいいのか。
そんな俺と違ってミラは幸せそうな顔をしていた。さすがこのパーティーのお母さんだな。そんなことをおもっていると、脳内お花畑の俺と真逆の神妙な面持ちでエリアが話し出した。
「……すまない。ダンジョン内で先走ってしまった。みんなを導くリーダーたる私が足を引っ張るなんて。リーダー失格だ」
今にも泣きだしてしまいそうな顔をしている。抱きしめられているメアが心配そうな顔を浮かべている。俺はダンジョン内で言いたいことは言ったので、あとはみんながどういうのかだな。
俺が周りの状況を俯瞰するようにして彼女たちの行動を見ていると、最初に口を開いたのはミラだった。特に攻め立てるような口調でもなく、しかしよく透き通った芯のある声だった。
「エリア、私はあなたが反省して次から変えてくれるなら良いです。私がしたい話はこれからどう対処していくかです。それに私たちだって罠に気づかなかったわけだし」
「そうだよー、大丈夫だよ、エリア?」
メアは自分の口下手を案じたのだろうか、ミラの言葉に便乗するようにそれ以上のことは言わなかった。彼女にとってはそれが最善だと思ったのだろう。言葉よりも彼女は自身の顔をエリアのほうにこすりつけている。彼女なりのやさしさなんだろう。
「と、みんな入ってるけどなぁ……、リーダー?僕はエリアに元気を取り戻してほしいよ。僕たちは何が起こってもエリアについていくんだからさ」
「み、みんなぁぁぁ……やさしぃしゅぎるゥよぉお」
エリアが大粒の涙を流した。多分、こらえていたんだろう。リーダーだからとか何とかで。メアがエリアの胸元で慌ててハンカチを取り出して拭いてあげている。
「みんなは優しすぎるからもっと怒ってもいいんだ。自分勝手なことをしたんだから」
「何ですか?怒られたいんですか?なら小一時間ほど説教しますけど?」
そういってミラは笑った。これにはエリアも冗談だと気づいたのか、はにかんで目の前のメアをぬいぐるみのように抱きしめてみんなに聞こえるように言った。
「やめてくださいぃー」
そんなことをしながら、エリアが少し落ち着いてから俺たちはいつもの酒場へと向かった。いつも通り、この場所は俺たちを歓迎してくれた。周りには初めてのシルバーのクエストをクリアしてきたように見える。それも誰一人、欠けることなく。
後から聞いた話だが、初めてシルバーに上がったパーティーは調子に乗って身の程に合わないクエストを受けて全滅ということがよくあるらしい。
数少ない女のみのパーティーということで情報共有が他のパーティーとしにくいから、そういう点では不利である。俺が積極的にしに行くか。嫌だけどさ。
席に座ったエリアがいつもの調子で掛け声をかける。いつもの元気が戻ってきてくれて助かった。
「とりあえず、無事に帰還したことだしカンパーイ!」
「「「うぇーい」」」
雑な乾杯の音頭を取った後にメアがこれからの冒険のことを切り出した。さすがにあんなことがあって対策を足らないのは、駄目だろう。
「私たちに足りない役職があるよね」
この子はかわいい見た目をしているがしっかりと情報分析ができるいい子ちゃんなのだ。その疑問に理解しているのは俺とミラ。理解していないのはエリアといったところか。まあ、話していけばわかるだろう。
「
「そうだよ、ミラ。だからこれからのダンジョンには専門役職の連れていく必要があると思うのよ。そうでしょ、エリア」
「まったく、その通りだ。私もそう思う」
エリアはすぐさまに首を縦に振った。エリアがちゃんと理解したのか怪しいが、その人材が必要なのは紛れもない事実である。俺はこの状況をよい状況だと判断している。なぜならこれにはあてがあるからだ。
俺の地震に満ち溢れた顔とは裏腹にみんなの顔は暗かった。それは周りの反応が物語っているだろう。
「おい、純白鳩が斥候募集しているってよ。俺、立候補してやろうかな」
「おい、お前に抜けられたら、パーティーが崩れるだろ」
「でもあのパーティーに入れるなんて、またとない機会だぜ。ハーレムだ」
こんな風に男たちが企んでいるからである。彼らがこう思うのは二つ、理由がある。まず、斥候を役職としている人が少ない。とても珍しいのだ。なぜなら一人では稼げないからである。もう一つは女の斥候はもっといないということだ。
それを重々理解している彼女たちは少し表情がこわばっているのだろう。
「さすがに男は入れたくないけど、仕方ないよね」
「命には代えられんしな」
「誠実な人がいいですけどね…」
半ば、諦めムードが漂っている彼女たちに救いの一手を差し伸べようと思う。ていうか、マジで俺が男だってばれたらやばくないか……。
「僕に当てがある。女の子の斥候の当てがね」
俺がそういったとき、酒場の人たちの表情が一変した。楽しそうな雰囲気からお通夜ムードに。そして俺たちのパーティーは元気を取り戻していた。
「き、期待していいんだよね?」
三人ともが机に乗り出して俺のほうに近寄った。
「まあ、多分?」
◆
そして俺は箒を片手に握ったメイドさんに頭を下げていたのだった。
「それで私を駆り出そうというわけですか?」
俺はもっと深く頭下げた。ケーラはため息をついていた。
◆◆
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