第15話

手負いのエリアを背負いながら、4階層に向かうと泣き叫んでいる声が聞こえる。やはり何かあったのか。やはり後衛二人ではだめだったか。俺がもっと早くボスを倒していれば……。


後悔の念に浸りながら、もしかしたら生きているかもしれない。そうあってほしい。そう思って期待を捨てていなかった。泣き叫んでいるということは人間が生きている。こういう表現になるのは魔物が化けているだけかもしれないから。


「エリアぁぁぁあ!アリアンッーーー!」


メアの泣き声だ。彼女たちは生きている。俺は階段を上るスピードを上げた。エリアを回復させてあげるためもあったが、早く彼女たちを安心させてあげたかった。4階層のフロアが見える。ちょうど俺たちが落ちたところが階段だったのか。


女の子二人が肩を抱き合って座っているのが見える。俺たちが落ちていった穴を見ている。自分たちが落ちそうなくらいにのぞき込んでいる。


「大丈夫ですよ、エリアさんたちは必ず、きっと帰ってきましゅよぉぉお……」


メアの背中をなでるミラも泣いている。さすがに階段を女の子一人背負って、走ったためにつかれたのでゆっくりと近づく。彼女たちの目の前には跡形もなくなったゴブリン。人型に化けていたモンスターの死骸はなかった。


メアの衣類が被されているのは多分、冒険者の人だろう。死に顔を世間にさらされないというだけでも気が休まってくれたらいいなと思う。それが俺たち冒険者にできるせめてもの償いと思ったんだろう。


俺はたくさんの人の死を小さいころに経験している。そういう場面には多く、立ち会った。ここに来るまでもそうだ。いちいち気にしてられない。前まではそう思っていた。でもパーティーメンバーができてからは少し変わった。


俺はしないが、誰かが弔いたいというなら俺は批判することはないだろう。人間が人の死を悼む気持ちは普通だから。多分な。


「ただいま。メア、ミラ。無事、帰りました」


俺は二人してうずくまっている彼女たちの後ろから声をかけた。俺の声で緊張が解けたのか、メアはもともと号泣だったが、ミラすらも号泣してしまった。そして俺に向かってきた。


「「うわあああああー!アリアンー」」

「ま、まてまて。その前にエリアを治してやって。僕をかばってこんなことになったんだ」


俺がそう言って、エリアをゆっくり地面に落とすとメアとミラはシンクロするようにエリアのほうに近寄った。メアは心配するように手を握って、ミラは「回復魔法をかけます」といって呪文を唱え始めた。


この二人にあって、俺も体力の限界を感じて座り込んだ。力のこわばりが地面に逃げていくような気がした。


「ちょっと待ってくださいね、アリアンにも目に見えないだけでダメージが蓄積しています。そこでゆっくりしていてください。メアは周りを警戒してください。魔物が現れたら遠慮なくぶち込んでください。帰りは回復したアリアンに頑張らせます。だから今はゆっくり休んでくださいね。頑張りましたね」


そういってミラは優しく俺の頭を軽く撫でた。俺は徐々に意識を失っていった。ボスは倒したので、魔物が増えるということはない。安心して意識を手放した。ミラの柔らかい太ももに頭をうずめながら。







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