第14話

俺の加護は特殊だ。ほとんどの人は常に加護を解放している。冒険者登録したときに、個人の潜在能力の解放のような形でもらえるものである。その理屈はわかっていない。代償すらわかっていない。だが、強くなれる。それだけのためにみんな加護を受け取るんだ。


話戻って、俺の加護は決して人前で行えるものではない。だからいつもは使わない。でも今回は非常事態である。使わないと死んでしまう。そして、エリアは気を失っている。誰にも見られることはない。


制限リミッター解除」


俺が勝手にそう呼んでいるだけである。俺の加護は約1分間のみ、自分の能力を大幅に底上げすることができる。シンプルかつ、強い。最初の30秒間は。


強い加護には絶対にデメリットが存在するのだ。残りの30秒間は自我を手放すことになる。俺の欲をそのままに動くことになるらしい。30秒のときにどうなっているかは俺は覚えていない。


この加護をはじめて見せたカーラ曰く、


「人前であまり使わないほうがいい。すごいから……」


とのこと。だから俺はいつも一人きりの時。それも死の危険を感じたときのみに使用している。そしてパーティーメンバーがいるときに使うのは初めてである。


ゴブリンも手負いである。片足立ちで尚、俺たちに殺気を放っている。ダンジョンのボスというだけある。


30秒内に沈める。戦略もくそもない。俺は強く地面を蹴る。前よりも早い。俺の運動神経が遅れてついてくる。直観の世界。ゴブリンと俺を結んだ直線の方向に飛んだんだ。ゴブリンも木の棒を構える。


単純な能力勝負。小手先の技術はいらない。


叫んだ。思考もない。ただ本能のままに剣を振るう。ゴブリンの木の棒と剣が交わる。木の棒が真っ二つになる音とともに、どす黒い血しぶきがゴブリンの上半身から飛び出す音がした。


殺した。やったんだ。倒した。石の階層の扉が擦れる音を出しながら開いた。早く、4階層に向かわなければ……。早くしないとメアとミラが危ない。後方二人ではだめだ。


行かなきゃ、行かないと。……はやk…。


……。


アリアンは意識を手放した。ダンジョンの5階層には生きているものはアリアンとエリアのみ。その静寂の中、獣や魔物にも似た奇声がこだました。


「アッヒャッヒャーー!!」


狂ってしまったアリアンが奇声を上げたのだった。


アリアンはただエリアのほうに向かった。男ということを隠そうともしない歩き方で。乱暴に自分の髪の毛を搔きむしりながら。回復薬で治しただけの右足が痛むのだろうか。尻もちをつくようにしてエリアの前に座り込んだ。


そしてアリアンはエリアに手を伸ばした。彼はさっきまでの不自然な行動とは程遠い優しい手つきで、気絶しているエリアの鎧を丁寧に脱がす。明らかに、年齢=彼女いない歴のアリアンとは思えない手つきである。


エリアは彼女の引き締まった体が強調されるインナーのみになった。アリアンはエリアの腰に手を回すと強く抱きしめた。エリアはただアリアンに身を預けるような形である。


「俺にすべてを委ねろ、女騎士」


考えられないようなきっしょい発言の後、エリアの唇に彼は自分の唇を重ねようとした。その瞬間だった。


「う、うわああああああっ!??」


童貞が返ってきたらしい。


……


俺は今まで何を。そ、それにエリアにこんなこと。早く鎧を戻して助けに行かなきゃ。急いで鎧を彼女に着けなおすと背負って急いだが、重い。


走ることはおろか、歩くこともしんどい。これは決してエリアが重いとかではなくて鎧が重いのだ。壊れていたからその場に置いていくことにした。帰りが安全ではないということは分かっていたんだが、動けないんじゃ埒が明かない。いくか、上に。


◆◆

星が欲しい。



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