第13話

二人のことはわからない。後は彼女たちが何とかしてくれていることを祈るしかない。それより、血の匂いが充満したこの場所からでなければ話は進まないだろうな。


ゴミのように積み上げられた人間。剣がそこらへんに散らばっている。地獄の様である。本来、ダンジョンというものはこのようなものなのだろう。俺たちがぬるま湯につかっていただけで。


目の前にはエンシェントゴブリン。ゴブリンの中でも上位種である。持っている木の棒には血痕が染みついている。横では、青ざめた顔で俺のことを見つめるエリアがいた。


「すまない。私のせいでこんなことになってしまった」

「ほんとにそうだ。僕がいなかったら、エリアは一人でボスに挑むことになっていたんだ」


俺はきつく𠮟っておく。それはそうだろう。自分の感情を優先したんだから。でも叱って済むならいいんだが、現実はそうもいかないらしい。


「ヒーラーがいないから、一撃もらったら、即死だね」

「ミラがいないからな。軽傷でも回復がないなら、あの死体の山行きだな。笑えないな」


そういってエリアは剣を構える。一撃も受けることができないという緊張からか、少しだけ足が震えていいるような気がする。


「エリア、僕は運がいいことに回復薬を一つだけ持っているんだ。一撃だけはもらっていい。だから、エリアの全力をぶつけてこい。僕も本気で行くから」

「ありがとう、生きて帰ろう」


盛大なフラグが建てられたような気がするが、走っていくエリアを補助するように立ち会う。エリアは真正面からゴブリンに立ち向かう。彼女の何倍も上から振り下ろされる木の棒を剣で受け流す。跳ね返すことはできないが、隙ができた。


バランスが崩れたすきに俺は足元に滑り込む。勢いをそのままに右足を刈り取る。俺の精一杯をくれてやった。ゴブリンの右足は切り裂かれ空中に舞った。


しかし、右足を切り落とすときにスピードが緩んだ。ゴブリンは雄たけびを上げながら崩れ落ちるように木の棒を俺に向かって振りおろした。にげきれない。


「悪い、逃げきっ…ヴゥッ!」


次の瞬間、俺の右足に重い衝撃が走った。折れた。そのことを知るまでに時間はいらなかった。もう一度来る。そう思った。折れた右足は動いてくれないらしい。次は急所に当たるだろう。あれをもらえば耐えられない。


あきらめるように目をつぶった。


しかし、俺に最初に訪れたのは感覚は暖かいエリアの抱擁の感覚だった。そのあとに、はじかれるように壁際まで飛ばされた。エリアは反転するように俺を守りながら壁に当たった。後ろで低い声が聞こえた。


「エリア?生きてるのか?おい!何してんだ。このままじゃ、お前が……」

「もとはといえば、私が受けたいといったクエストなんだ。当然の報いだ。回復薬は自分に使ってくれ。それで、二人を助けてやれ。アリアンのケガなら完治するだろう?」


そういって笑った。ゆっくりしている暇はない。俺が切り落とした右足も時間がたつと回復するかもしれない。そうなると本当に勝ち目がなくなる。しかしこのままだったらエリアは出血多量で……。


「ばか、死ぬなら一緒だ。相棒さんよ」


俺は回復薬を無理やりエリアの口にねじ込んだ。彼女はそれを受け入れたように口に含んでいく。それでいいんだ。それで血は止まるだろ。後は何とか俺が倒すか。エリアに回復薬を預けて、ゴブリンのほうを向きなおすと、俺のすそをエリアは引っ張った。


「なにしてr


次の瞬間には、俺の口はエリアの口でおおわれていた。エリアの口から直接、流し込まれた回復薬。彼女は飲み込んでいなかったのだ。驚いてそれを飲み込んだ俺。右足の痛みは消えていた。


「女の子同士でもドキドキするんだ」


うっすら笑うと、彼女は意識を手放した。俺は唇に残った初めての感覚に浸っている暇などなく、ゴブリンに向かう顔が赤くなっているのは、きっと戦場の興奮によるものだけではないだろう。


「嫌だが、使うか。俺の加護」




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