第12話

俺たちは転送者テレポーターのもとへ向かい、目的地のダンジョンに向かった。転送者の人の話によると少し前に何組かのパーティーが向かったそう。


ちなみにテレポートは飛ばす場所によるが少し時間がかかる。それに飛ばせる場所はテレポーターがその場所を鮮明に思い出すことができるという条件がある。何回もクエストに上がる場所なのでテレポートで向かうことができるということだ。


なかなかの待ち時間のため、テレポートの範囲内には椅子が用意されていたりする。今回は馬車のようになっており、四人が向かい合うように座った。俺の横はエリア。


もう何人か向かったという話を聞いたエリアは俺の足を、急がなきゃといわんばかりに叩いた。


「エリア、いたい」

「すまない。無意識に……痛かっただろう?」


そういって、今度は俺の足をなで始めた。おいおい。それはそれでまずい。おれがゆっくりとエリアのもとから足を離すと、エリアは追いかけてきた。


あきらめて瞑想することにした。次に目を開いたときには、ダンジョンが目の前にあった。いたってふつうのダンジョンである。こんな感じのものなら、何度もブロンズの時に潜ったことがある。


「初めてのシルバーランク、クエスト頑張ろう。私が先頭を切る。すぐ後ろにアリアンがついてきてくれ。ミラは常に数メートル先を照らしてくれ。戦闘になったら、ランプに切り替えてくれ」


ダンジョンは常に暗い。ランプが必需品だ。しかし手荷物が多くなるために持っていける数にも限りがある。


そのため、初心者パーティーは大体が魔法で代用する。メアには指示がないが、彼女は自由に行動してくれてかまわないのだろう。自分で最善を判断してくれるからだろう。


ダンジョン特有の長い階段を下りる。降り切った先から一階層となる。緊張感が体を包む。しかし、怯えることなんてなかった。ほとんどがブロンズと変わらない魔物と同じ。バッドや、ゴブリン。インプなど。初期の魔物のみである。


「渋いドロップアイテムだ。これでは何の足しにもならない」


そんなことを言いながら、木の棒でゴブリンの死体漁りをしているエリア。シルバーのクエストと言っていたので少し気を張っていたがそんなこともなかったか。


「早く行きますよー。死体漁りももういいでしょ。エリアが前を言ってくれないと進めないじゃない」

「そうだな。進むとしよう」


俺たちは死体漁りもそこそこにして、先に進んだ。しかしなんかケーラが注意してくれていたよな。シルバーランクになったと報告したときに。何だったか。思い出せないが気を付けないといけないと思っていたことがあるはず。


思い出せないまま4階層まで来てしまった。事前情報によると5階層でボス戦である。ボス戦は一組ずつしか入れないという暗黙の了解がある。獲物の横取りが発生しないためというのもあるが、出入り口が閉まる仕掛けになっていることが多い。


開くにはボスが倒されるか、パーティーのメンバーの全滅が条件である。


「そういや、前に行った何組かのパーティーってどうなっているんでしょうか?」

「もう、5階層まで行っているんじゃない?」


ミラが先に行ったパーティーのことを心配する。ダンジョンで助け合いはいらない。それは冒険者になるときに絶対に言われることである。自分の身は自分で守る。それはそうだが、やはり人の子たるもの、ほかのパーティーのことも気になってしまう。


俺たちが5階層に降りる階段を探していると、悲痛なうめき声が聞こえた。魔物の断末魔とは違う人間のもの。


「ヴヴアァぁぁぁあ!!」


甲高い声がダンジョン内に響いた。女の人の声だ。俺たちは頭で判断するよりも先に走っていた。声のもとに走っていくと、そこは血で地面が染め上げられていた。


「なにこれ……」


後ろでメアがつぶやく声が聞こえる。たぶん、女の人が二人。というのも一人は顔が識別できないほどになっている。金髪の髪が所々、うかがえるくらいである。しかし皮肉なことに体はきれいに残されているようで、ゴブリンがそこに群がっていた。腰を前後に振っている。男の俺でも何とも言えない状況だった。


もう一人の女はというと、片足が切断された状態で少しずつ後ずさりしている。さっきの悲鳴はその時のものだろう。しかし、彼女の武器はたぶん遠くに落ちているステッキ。魔術師だろう。もう一人は役職はわからない。


「た、助けなきゃ……」


そうメアがつぶやく。目の前の惨状を見て言葉がうまく出ないのだろう。杖を強く握っている。震える足をそれで持ちこたえているんだろう。


「だめだ。何かがおかしい」


彼らは獲物のである人間が前にいるのに襲ってこない。そんなことが有り得るのか?


「アリアンッ!私が行く。ゴブリンなら私にかかれば殺せる。女をあのように扱って許せない」


エリアが怒りに燃えたように叫ぶ。ダメだ。冷静な判断ができてない。ダンジョンの難易度。ブロンズとシルバーの違い。そうだ。ケーラが言っていたのは「魔物の知能」が上がるということだ。


「彼女たちには絶対にいるはずの前衛がいない。これはゴブリンたちのだ」


俺は何しているんだ。無能なのか。男の俺が胸糞悪いんだ。女の子のエリアなんていっそうだろう。女が無理やり犯されている。そんな光景目にしたら.....。横を見た時にはもう彼女はいなかった。一歩先に踏み出していた。


「バカがぁぁあ!」


俺が叫ぶと同時にエリアについていく。エリアの剣がゴブリンに突き刺さりそうになる。


いけるのか?そう思った瞬間に、地面が抜け落ちた。俺とエリアは吸い込まれるように下のフロアへと落ちた。


俺が落ちる地面を蹴り上げて、見えたのは片足を切られた女は『笑っていた』ということだけだった。魔物が化けていたとしか言いようがない。


「生きてくれ、僕たちは絶対に戻る!」


落ちながら叫んだが、二人に届いたかはわからない。俺たちは舐めていたんだ。ダンジョンを。




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