第11話

ケーラの「いってらっしゃい」で家から出た俺はパーティーのみんなが待つギルドのほうへと歩みを進めた。道中で不審者に絡まれそうになったが、股間のほうを見て鼻で笑うとそいつは動かなくなっていた。


少し重めのギルドの扉を開ける。少し鈍い音がするので中にいる人たちがこちらを振りむく。顔は怖い人たちだが、町のみんなを守っている兵士兼冒険者だと思うと彼らの顔を傷もカッコよく見える。


俺が周りをきょろきょろとしていると、前からかわいい魔術師がかけよってきた。


「アリアーン!もうみんなそろっているよ。アリアンが最後だよ」

「おはよう、メア。今日は新しいダンジョンに潜るんだっけ?報酬も弾むやつ」

「そうだよー。エリアなんてお金に目がくらんで食い気味に申し込んでいたし。家を買おうとし始めてからエリアはいっそう、お金が好きになったみたい」


そんな会話を楽しんでいると申込用紙を握りしめているエリアが目の前にいた。紙の端がくしゃくしゃになっているのは、強く握っていたからなのだろうか。


「早くいこう。なんとボスは一か月に一回しか湧かないらしい。倒したら金貨2枚もいただけるということだ。まあ、100枚には程遠いがな。それに生活費に消えていくとすると、はぁ……」


そんなことを言って指折り数えているエリアと横で別の数字を言って邪魔しているメア。子供だなあ、と思っていたがダンジョン攻略で金貨2枚か。少し高すぎないか。相場は銀貨20枚程度。金貨0.02枚ほどが妥当だ。怪しい気がするが……。


「エリア、それってほんとうに僕たちが受けてもいいものなのかな?難易度が高すぎるとか?報酬が高すぎる気がするんだ」


俺がエリアに警告を促すともう一度エリアが募集用紙を見た。


「応募条件にはシルバーランク以上のパーティーって書いてある。新しく出たものだから分からないんだ。前にこのクエストの受けたのは王都に行ってしまったパーティーで、即クリアしていったって言ってたんだが」

「簡単そうには聞こえるけど、今そのパーティーはゴールドランクだし、実力差があると思う」


あまりお勧めはできないクエストだな。前例が悪すぎる。俺たちみたいなシルバーに上がったばかりのやつらがクリアしたみたいなものだったら、即受けたが。

難易度が図りずらいな。


「でもゆっくりしているとこのクエストは他のパーティーにとられるかもしれないよねー。まあ、私がいれば魔法でちょちょいのチョイだけどなー」

「何かあれば私が後方で回復をかけられますし、後方がしっかりしていれば私たちのパーティーがやられることはないです」


それはそうか。前方は俺とエリアがいればほとんど崩されることはない。というか、負けそうだと思ったことはないしな。


「じゃあ、受けようかな。エリア、申し込んできてくれる?」

「わかったぁ!」


嬉しそうに、窓口のほうに走りだしていった。パタパタと走ってく後姿を眺めているとミラが話しかけてくる。周りには決して聞こえないような声で。


「金貨2枚ってすごいんですよね?」

「僕はすごいって思うけど?」

「ですよねー。そうですよね」


ミラは俺のほうを見てニコッと笑った。おい。なんだその笑みは。金貨、銀貨、銅貨の違いが分かっていないなんてことないよな。まさかなあ、商業の名家のお嬢様に至ってそんなこと。100→1という簡単な計算のはずだ。


「さて、ミラちゃん。僕から問題です。銅貨何枚で銀貨一枚でしょうか?」


俺がそう聞くと、ミラは満面の笑みで答えた。


「1000枚ですよねー。銅貨は価値が低いですからね。なんでそんなことを聞くんですか?」

「ミラ、答えは100枚だ」


少しの沈黙の後、ミラは俺のほうを見た。飛ぶように帰ってきたエリアのことを横目に俺たちは……。


「「えへへっー!」」


笑っておいた。笑ってごまかすと予想を踏んでいた俺と予想通り動いたミラとのハモリが完成されていた。なんのことかわかっていない残り二人は不思議そうに俺たちのことを見ていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る