第8話

窓を拭きながら、思い出したかのようにケーラが言うのだった。それは俺らにとっては重要なことで。


「そうでした、アリアン様に伝えなければならないことがありました。やはりあの事件は政府が隠ぺいしていることが多いようですね。については何も情報が出てきません。アリアン様は何か進展がありましたか?」


あの男というのは、俺たちが小さいころに見た男。確実に事件に関わっているのだが一向にしっぽがつかめない。その事件の真相を俺たちは追っている。パーティーに参加していることの一つにこの理由がある。


「まじかよ、そんな気はしてたんだかな。俺の方は全然だ、申し訳ない。その事をそっちのけで冒険者を楽しんでしまってる」


俺が申し訳ない気持ちを込めてそう言うとケーラはこちらを向いて、普段は見せない笑みを見せた。


「私はアリアン様が楽しそうなのが1番嬉しいです。頑張ってサポートするので、しっかりと戦ってきてくださいね」

「おう。いつかケーラのことパーティーの皆に紹介できる日が来るといいな」

「まぁ、いつかですね。私は個人的に純白鳩のファンですからね、特にメアちゃんとかは可愛くて愛でてあげたくなります。よく地元の新聞で見るんですけどね」


ケーラは小さい子を愛でる母性を全開でメアのことを口にした。多分、本人が聞いたら嫌がるだろうな。


「私を子供扱いするなっー!」


ってさ。それはそれでいいんだけどさ。ケーラも同じくらいの歳なんだから仲良くなれると思うし、彼女もちゃんとした生活を送って欲しいと思う。恋愛だってしたいはずだし。メイドの仕事は自由にしているから何不自由ない生活のはずだが、やはり俺たちは学がないのが痛いな。一般常識ならあるんだがな。


俺は男だから力仕事でもすればいいんだろうが、ケーラは違う。この世の中は、身分で結婚が決まるんだ。村みたいな身内の結婚とは違うんだ。


そんなことをまじめに考えている俺をよそに一人前に乙女をしているケーラは楽しそうに忍び寄った。


「で、なんですが……はっきり言ってパーティーのどの女を狙ってるんですか?選びたい放題ですからね?」


若干俺の事をバカにするような笑い声を漏らしながら言うのだった。両手をもみもみするという露骨な仕草で俺の今の状況を表現する。


「おいおい、そんな邪な気持ちがあったらパーティーはやっていけない。そりゃ、可愛いなって思うことがあってもそれは一線を超えるようなものじゃないし」


俺はほうきをはいている手を早くする。彼女達とは友達で……。それに男ってバレたら女の子だけのパーティーに男がいたなんて……。追放確定じゃないか。


それにキモがられて、バッドエンドしか見えないし。


「じゃあアリアン様は飼い犬で例えますと、『待て』の状況ですか。じゃあ色々と溜まりますね」

「そうなんだよ。我慢するのが大変でな……って、え?ケーラは何を言ってるんだっ!?」


俺が持っていたほうきを動揺で落としてしまう。俺が慌てて拾いなおしていると、そんな俺を横目にケーラは何も意識していないような冷静な声で言うのだった。


「それじゃあ、私に全部ぶつけちゃいますか?メイドなわけですし。」


短めの髪の毛を指先でくるくるさせて、冷静さを保っているというのが分かる。ケーラはメイド服のスカートに手をかける。そんな仕草に俺は冷静さを失う。


「……っ!?」

「頑張ってるアリアン様にご褒美です。ほら、なんなりとお申し付けくださいませ」


そう言ってスカートをひらりと舞わせた。ケーラになんでも言うことを聞いてもらえるのか?い、一応主従関係なわけだし、できないこともない。でもそんな風に今の関係を定義したくない。これは俺たちの友情関係で成り立っているんだ。


彼女の提案に首を縦に振れば、今までの関係にどろを塗ることになるだろう。だからそんなこと……。


「……やっぱり無理だぁ!ケーラは自分の体をちゃんと大事にしなさい!うわぁあぁあ」


俺はその場でドタバタと暴れた。暴れたんだ。せっかく集めたほこりが散らばるなんてことも気にせずに。そんな俺の態度に一応納得したらしいケーラが軽くうなずく。


「……え、あ、はい」

「僕はヘタレだぁあ!!」


それだけ言い残すと、アリアンは走っていってしまった。1人その場に残されたケーラはひとつ小さくつぶやくのだった。


「ほんともう、私はなんであんな誘い方しかできないんだろうなぁ……、ちゃんと好きなのになぁ」


◆◆



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