第5話

「も、もう食べれない、れふ……」


調子に乗って、ステーキを食べまくっていたミラが自分より一回り小さいメアに、もたれ掛かりながら呟いた。メアが重そうに顔をしかめる。 


「ミラ……重い」


メアがそんなことをつぶやいたので、周りの人に弁解するように少し大きめの声で言う。なんと乙女らしい行動である。世間体とやらを気にしているのだろうか。


「違うですからね?別にふ、太ったんじゃなくて、これはさっき食べたお肉の重さなんですから」

「じゃあこの腹についた肉はなんだっ!」


そう言ってメアは脇腹をぷにっと摘む。ひゃっう!、っと変な声を出して抵抗するミラ。公共の場でイチャつくな。また変なファンが増えるだろ。こんなかわいい行動を見せていたら。俺は断じて参加しないぞ。変なファンが増えても自己責任ということで。


俺は目の前でじゃれ合う二人を冷ややかな目で見つめておいた。エリアは仲がいい事は良い事だと言わんばかりに、腕を組んで頷いていた。リーダーとしては嬉しいのだろう。


店の前で長居するのも、迷惑なので解散することにした。酒場で帰る方向が逆のメアとミラとお別れしてから、俺はエリアと一緒に歩き始めた。


このブタさんと一緒は嫌だ、とメアが嘆いていたが俺たちは軽く無視した。


夜の街に美少女とふたりきりっ!なんて舞い上がる俺はもういない。この状況になれてしまっている俺が怖い。健全な男の子ではないみたいだ。


でも月明かりに照らされて綺麗に光る碧眼には思わず見惚れてしまうものがある。それに男としてはエリアが持つその凶器ともいえる、ふたつの……。いやいや、さっきの発言が秒速で矛盾してしまうような発言は避けよう。


そんな邪な考えを抑えていると、月明かりの雰囲気に酔ったような顔をうかべたエリアが口を開く。顔は少しだけ火照っている。


「ついに私達もシルバーか……」

「僕が入った時はホワイトだったから、強くなったものだよ」

「そうだなっ!」


そう言って、エリアはニカッと笑った。金色の髪がふわりと揺れる。そんな姿に俺は目をそらすことしか出来ない。これ以上、彼女を見たら魅了状態チャームになるやもしれん……。


アホなことを考えている俺と正反対に、深刻そうな顔で聞くエリアがそこにはいた。いつもの強気な彼女は違うどこか、脆さを感じる。そして、重苦しく口を開くのだった。


「……アリアンは純白鳩に入って良かったと思うか?」


そんなことを言う。ふざけて言っているような様子はない。考えもしてなかった質問に俺は言葉が出ない。


多分、俺が慌てていることに気づいたのか、弱気な笑顔をエリアは浮かべて見せた。


「悪かった、今のは聞かなかったことにしてくれ」


切り替えるように前を向くエリア。そんな彼女を俺がほっておくわけないだろう。


俺が1番にしているのは男とかそんなことよりも、守らなきゃいけないのはこのパーティなんだから。


「待って。僕になんでそんなこと言うの?今の僕じゃ不満かなぁっ……?」


必殺、天使の涙エンジェルティア。これはただ単純に俺の綺麗な顔面(自称)に涙を伝わせるコミュニケーション能力のひとつ。いわゆる嘘泣き。


強気なエリアにはここまでしないと、本当のことを言ってくれないだろう。俺が袖を摘んで、エリアのことを引き止める。バッチリとエリアは俺と目が合う。


「あぁっ…!?ご、ごめんなさい。アリアンが悪いとかじゃなくてだな……?」


あわあわと焦ったように、身振り手振りでどうにかしようとするエリア。よぉーし、これでちゃんと話を聞けるぞ。


少し強引なやり方だったが、パーティを守るためだ。仲良しが1番だからな!うんうん。


「じゃあ、なんで僕にそんなことを言ったの?」

「そ、それはアリアンに迷惑がかかってるから」

「……へ?」


迷惑?こんな最高なパーティが俺に迷惑なんてかけているわけない。なんなら俺が絶賛、男として迷惑をかけようとしてるのに。

あはは……。


「だって、君にもえろい視線を向けてくる男たちが増えただろう?少なくとも私たちのパーティに入らなかったらそんな視線を向けられることも少なかったはずだ」


なんだよ……、野郎共の視線か。俺はそんなもん気にするわけない。なんせ男だから。不快に感じることは無いし、女装が上手くいっているという確認にもなる。


「僕はそんなこと気にしない。だって僕はこの最高のパーティの聖騎士だよ?そんなの惚れられて当然。このパーティーに入る時に覚悟してたよ」


これはまじの話。このパーティに入るのは覚悟がいった。このパーティになんで入ることになったかは今じゃなくていいよな。


「……じゃ、じゃあこのままパーティにいてくれるのか?」

「もちろんだよ。えっ!?何泣いてるの?エリア」

「安心したらぁ、涙が、でて、きてぇっ……」


彼女の青くて綺麗な目から落ちる涙は美しい以外の言葉は似合わない。そんなものだった。思わず俺は抱きしめてしまっていた。脊髄反射だったのだ。


「大丈夫……大丈夫だからね」


彼女はパーティのリーダーとして責任があるんだ。一人で俺たち4人分の責任を背負っているんだ。俺がそのストレスの捌け口になってあげられたらそう思うのだった。


「大好き!大好きだよ!アリアンぅ……」


そう言って抱きつき直す。エリアは俺の背中に手を絡めた。


いつもは筋トレをしていて筋肉質は体つきだと思っていたが、やっぱり体は女の子なんだなぁ、と再認識した。


「アリアンとこうしてると落ち着くよぉ.....」


……え、まじか、たまらん。俺の理性がゴリゴリと削られていく音がした。



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