第9話_診療所
次の日、村田は緊張と期待を胸に秘め、
街の端にぽつんと佇む小さな診療所での仕事に臨んでいた。
彼が想像していた医療の現場とは大きく異なり、
診療所の中は驚くほど静かで、患者の気配はほとんどなかった。
「..人、来ないですね」
村田は微かに失望した様子でつぶやいた。
彼の声には、新しい職場に対するわくわくした期待が少し霧散したことを示していた。
グレイスは、村田の言葉に穏やかに笑いながら、
「来ないですねぇ」
と同意した。
彼の声には、長年この診療所で働いてきた経験からくる落ち着きが感じられた。
村田はさらに
「..いつもこんな感じなんですか?」
と尋ねた。
グレイスは頷きながら説明を始めた。
「この街はお年寄りの方が多いですからね。直接来られる方はほとんどいないので、基本的に訪問診療なんですよ」
「そうなんですね、今日は何件ですか?」
「1件です。事前に診療録に目を通しておいてください」
村田はグレイスの言葉に心を傾けながら、診療録に目を通し始めた。
「これは…かなり詳細に記録されていますね」
と村田が感心しながら言うと、グレイスは微笑みを深めた。
「患者さん一人一人の状態を正確に把握することが、訪問診療の鍵ですからね。私たちはただの医者ではなく、彼らの日常に寄り添う存在でありたいんです」
村田は深くうなずき、自分の役割を改めて認識した。
訪問診療に向けて準備を始める彼の動きには、新たな決意が込められていた。
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