第9話 それぞれの進路

高校の卒業が近づいてきた。

アイはアパレルのショップ店員、ルナは、百貨店の美容部員としてそれぞれ就職することが決まっていた。


おにいちゃんに迷惑をかけずに早く独り立ちしたいという気持ちもあったし、おにいちゃんを早く自由にしてあげたいという気持ちもあった。


自分たちが就職して家を出れば、おにいちゃんは仕事や家に縛られずに、自由に自分の人生を生きられる。


「本当に、私達、おにいちゃんには苦労かけたよね。」

アイが呟く。

「でもそれもあと少しよ。就職したら、うちらの最初の給料で、おにいちゃんを高級なレストランに連れて行ってお祝いしない?」

「いいね!それ!最高!」

2人はホテルのランチビュッフェを検索した。




アイとルナは、それぞれ彼氏ができた。


お互いの学校の中で、進学せずに就職するという選択をした学生は少なかった。


そんな少ない学生の中に、ルナと中学から一緒のユウトがいた。

意外に思ったルナが就職について尋ねると、自分は母子家庭で、色々と苦労をかけた母親に早く楽をさせてあげたいのだ、とユウトは語った。

ルナは、自分と同じような思いを持つユウトにシンパシーを感じ、惹かれていった。


ユウトとルナがより親しくなり始めた頃、アイの方は、卒業を目前に、色々な男子から告白されていた。その中に、アイと同じように卒業後就職する選択をしていたカズヤがいた。

カズヤは、中学の頃から家計のために新聞配達をしており、今でも寝る間を惜しんでバイトに明け暮れているという苦労人だった。

アイもまた、そんなカズヤに昌樹おにいちゃんの姿が重なり、惹かれていった。


みんなで集まるのも楽しそうだねと話してはいたが、狭い家の上に、お互い同時期に彼氏ができたので、アイもルナもまだ家に彼氏を連れてきたことはなかった。



「ルナ、ユウトくんと結婚したいとか思う?」

アイはハートのクッションを抱きながら尋ねた。

「高校の彼氏とそのままゴールインなんて、そうそうないわよ。」

ルナは少し呆れた口調で答える。

「でも、うちら全員、早く結婚したい人達でしょ?ルナも私も、この先お互いに女だらけの職場で、出会いもないわけだし。」

「それはそうだけど、うちら2人とも今の相手と結婚だなんて、ありえないわよ。」

ルナは鼻で笑った。

「夢がないなあ。ねぇアイ、もしルナもアイも結婚するってなったら、どうしても叶えたい夢があるの。」


「どんな夢よ。」



「まだ秘密だよ。ルナが結婚するときになったら教えるから、絶対に1番先にアイに教えてね!」


「え?いや、他に選択肢ないでしょ。アイもだよ。あたしに1番最初に教えるのよ。」



「もちろん!」



2人は顔を見合わせて笑った。




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