第7話 ユウトくん

ルナは学校でひとりでいる事が多くなった。

もともと気が強く、小さい時から孤立しがちなタイプだったが、中学にあがってからはよりそれが顕著になった。


「ルナ、さっきの授業、俺、寝ちゃった。ノート見してくんねー?」

ユウトは、両手を合わせてルナに頼み込んだ。

クラスの人気者のユウトは、誰にでも分け隔てなく接する。

「別にいいけど、気安く"ルナ"とか呼ばないでくれる?」

ルナは赤くなった顔を見られないよう、ユウトの反対側を向いてノートを手渡した。

「おっ、サンキューな、ルナ!‥っと、神坂こうさかさん。でもさ、神坂さん2人いるから、やっぱりルナでいいや。」

ユウトは勝手に自己完結する。


「ユウトー!!グラウンド行くぞ!!」

「おぅ!!」


教室を出ていくユウトの後ろ姿を、ルナは目で追った。

「ねぇルナ、なんか最近ユウトくんとルナ、仲良いよね!」

アイが後ろの席から嬉しそうに話しかけてきた。

「別に、ただノート貸しただけだし。」

ルナは振り返らずに答える。

「ユウトくん、ルナと話してる時、すごいニコニコしてるんだもん。私と話してる時は、あんなにニコニコしてないよ。」


ルナは知っている。アイは2年生の頃からユウトのことが好きだ。

四六時中一緒にいる2人は、お互いの考えていることなんて、声に出すまでもなくバレバレなのだ。


「私はああいう"人気者"はタイプじゃないの。アイのほうが、クラスの人気者同士でお似合いじゃない。」

「え〜?そんなことないよぉ。」

否定しながらも、アイは右指でパーマをくるくると巻いた。

「ルナ、前に中学のうちに彼氏作るって言ってたよね?ユウトくんなら、優しいし、ルナを大事にしてくれそうだから、ユウトくんがルナの彼氏になったら私も嬉しいなあ。」

アイは少し寂しそうにしながらも、ルナにそう言った。


アイも、わかっている。ルナは、ユウトくんが好きだ。でも、アイがユウトくんを好きだって気づいているから、好きじゃないふりをしている。



「もう中学校の間はひとりでいいの!高校になったらカッコいい彼氏作るんだから。」

ルナは前を向いたまま小さく呟いた。

「ルナも、アイも彼氏ができて、おにいちゃんにも彼女ができたら、うち、人がたくさんになってすっごく楽しそうだよね!」

ルナは振り返った。

アイは本心から言ったのだろう。目がキラキラと輝いている。


おにいちゃんと3人の生活、別に悪くはなかった。

人から色々言われることもあったけど

おにいちゃんはいつも優しくて、2人の味方で、自分のことより2人の事を最優先してくれた。

毎日の生活も楽しかった。

2人でケンカする日もあったけど、次の日にはやっぱり仲直りする。

【かぞく】だから。



でも、幸せそうな【家族】を見ると、いつもどこか心の奥が痛んで、お母さんがいればいいのに、お父さんがいればいいのに、ってずっとずっと思ってきた。




—おにいちゃん、こんな事思ってごめんなさい—





って思いながら。






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