中学校

第6話 保護者

「ねぇねぇ、ルナのお父さん、イケメンだよね。若いし」

隣の席のミハルがそう言った。

昨日、家族で買い物をしている時にミハルと会ったのだ。


「まあね。」

ルナは目を逸らして答えた。

この手の話は、これ以上広げないのが無難だ。


中学に入ると、別の小学校からきた子達がたくさんいるので、アイとルナの家庭の事情など皆、知らない。


お父さんでもない、お兄ちゃんでもない。

アイとルナの保護者は「叔父」である。

だが、小さい頃からおにいちゃん、おにいちゃんと呼び続けて来た手前、今更「お父さん」とも「叔父さん」とも呼べない。

ルナは近頃、まわりの友達のお父さんよりずっと若い「叔父さん」と一つ屋根の下で暮らしていることに複雑な感情を抱いていた。


一方のアイはというと、相変わらず、おにいちゃん、おにいちゃんと、叔父にデレデレしており、そんなアイのことを、ルナは少し疎ましく思っていた。


「アイさ、いい加減その"おにいちゃん"って呼び方、やめたら?あの人は、うちらの保護者オジサンだから。」

「えぇ!?いまさら急に呼び方変えられないよぉ」


クールなルナは、クラスでは少し浮いた存在となっていて、いつまでも純粋なままのアイは、男子から人気があった。

そんなことも、ルナのアイに対する感情に火をつけていた。


「だいたい、いつまでも"あの人"にベタベタして、アイちょっと、キモイよ。そんなんじゃ、男子にモテないからね。」

「いぃよぉ、別にモテなくても。恋愛は結婚する時までとっておくから。」

「何少女マンガみたいな事いってんのよ。私、中学の間にカレシ作るから。そしたら家に呼ぶんだから、今みたいにアイがあの人にデレデレしてたら彼氏にドン引きされるから!ガチでやめてね!」


「わかったよぉ。ルナに、彼氏ができたらやめるね。」

アイは寂しそうに俯いた。



夜7時。


昌樹おじさんが帰ってきた。

「おにいちゃん、おかえりー!」

エプロン姿のアイが出迎える。

「はぁ、疲れたよ。ルナも帰ってるか?」

「うん、あっちの部屋にいるよ。」

「ルナ〜、ただいまぁ。」


ルナは洗濯を干しながら、一瞬だけ昌樹の方を見て、また洗濯物に目をやり、昌樹の靴下を爪の先でつまみながら洗濯バサミにはさんだ。

「あのさぁ、いい加減彼女とか作ったら?うちらもう、自分のことは全部自分でできるから。帰ってくるのも別にもっと遅くたっていいし。デートの1つくらいしたらどうなの?」


「なんだよルナ、冷たいなぁ。俺がどうしようと、俺の自由だろ?」


昌樹が女の人と過ごすのを、小3の時以降一度も見ていない。

「いい歳して、親でもないのに中学生2人と住んでるなんて、周りから変に思われるよ。」

ルナは昌樹に背を向けながら続ける。

「近所の人は、みんなうちの事情知ってるだろ。親にはなれないけど、おまえたちの保護者なんだよ、俺は。」

昌樹は悲しそうに答えた。



「‥私にカレシができたら、めんどくさいから、"お父さん"ってことにするから。」

ルナは手を止めてそう言った。



「ルナがそうしたいなら、そうすればいい。叔父さんでも、お父さんでも、なんて呼んでもらっても構わないよ。」

昌樹はにこやかに笑った。



どうしてこの人は、どんなに悪態をついても、いつも優しいんだろう。

ルナの心の中が、チクチクと痛んだ。


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