第5話 おねえちゃん

「ただいまー!!!」

アイはピンク、ルナは薄紫のランドセルを玄関に置く。


「ねぇねぇ、ルナ、今日児童館のゆうなちゃんが、うちにあるのとおんなじ星座早見盤持って来てたよ。」

「えっ、そうなの?石川ゆうなちゃん?」

「ううん、4年生のゆうなちゃん。」


「アイとルナも、来年から学校で星座の勉強ができるな!楽しみだな!」

おにいちゃんは嬉しそうに笑う。


「ルナ勉強しなくてもいいよ。もう全部分かってるし。水・金・地・火・木・土・天・海!」

「ルナは頭がいいからなあ。おにいちゃんが教えたこと、なんでもすぐ覚えちゃうもんな。」

おにいちゃんはそう言って買ってきた食材を冷蔵庫にしまい始める。



「昔は、冥王星っていう星も、太陽系の仲間だったんだ。でも今は、そうじゃない。世の中も、世界も、変わっていくんだ。」

アイとルナはエプロンをすると、おにいちゃんが買って来たじゃがいもをとりだし、テーブルの上に新聞紙を広げて皮剥きを始める。


おにいちゃんは当たり前のように家事をする2人の姿を見て、一呼吸おいてから聞いた。



「なぁ、アイとルナは、お母さんいたらなぁって思ったりしないか?」




2人はおにいちゃんのほうを見上げて、きょとんとしている。


「そりゃ、昔は思ったよ。参観日とか、みんなはお母さん来てていいな〜って。1年生のときとかは、よくお友達にも、お母さんは?って聞かれたし。でも、もう別に誰も言ってこないよ、そんなこと。みんな知ってるし。」

ルナは平然と答える。


「アイはお母さん欲しいなぁ〜。本当のお母さんは天国にいるけど、だいぶ前にうちに遊びに来てくれたカナおねえちゃん、とっても優しかったし、いっぱい遊んでくれて楽しかったし、カナおねえちゃんが毎日うちにいたら、人がいっぱいになってもっと楽しいなぁーって。」

アイは少し恥ずかしそうに笑った。


「それはお母さんっていわないじゃん。おにいちゃんの"お友達"でしょ?」

ルナはそう言ったあと、何か思い立ったように驚いた顔をした。

「あっ、もしかして、おにいちゃんとカナおねえちゃん、"つきあってる"の!?」


おにいちゃんは複雑な顔をする。

「え、いや、‥うーん‥‥お友達だよ。」


ルナは安堵の表情を浮かべる。

「あ〜よかった!カナおねえちゃんは嫌いじゃないけど、ルナの大事なおにいちゃんをとられるのはイヤだもん。」

そう言ってルナはおにいちゃんの腕にしがみついた。


「あっ、アイもおにいちゃんがいなくなったらやだっ!!」

アイもまた、おにいちゃんの反対側の腕にしがみついた。



「大丈夫だよ、おにいちゃんはどこへも行かないよ、約束する。」

そう言っておにいちゃんは2人の頭を撫でた。


ルナは鋭い眼差しでアイを睨む。

「ねぇアイ、おにいちゃんから離れてよね。3年生にもなっておにいちゃんにベタベタくっついて、恥っずかし〜!明日、お友達に言うからね!」

「ルナだってくっついてるでしょ!人のことばっかり!!」

アイも負けじと怒り返す。



「こらこら、ケンカしない。ふたりのおにいちゃんだ。」

おにいちゃんは切なげな顔をして仏壇の遺影に目をやった。



お父さん似の、切れ長の目をしたルナ

お母さん似の、ぱっちりした目をしたアイ



おにいちゃんは、2人の肩をトントンと叩いて、深呼吸した。





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