小学校
第4話 あの日のこと
9月X日。
小さな仏壇の
「パパとママが死んじゃってから、もう6年も経つんだね。」
アイはそのまわりに置かれた写真立ての中でにこやかに微笑む両親をしんみりと眺めた。
「今もし生きていたら、パパは36歳、ママは35歳ね。」
「ルナ、計算早いなあ!」
おにいちゃんは目を丸くしている。
「あの事故で、アイとルナが無事だったのは、本当に奇跡としかいいようがないもんな。」
そう言ったおにいちゃんの表情が曇った。
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ーあれはアイとルナが3歳の時—
お父さんとお母さんと、アイとルナ。
そしてお父さんの8個下の弟だった"おにいちゃん"は、みんなで旅行に来ていた。
おにいちゃんは、うちのすぐ近くに住んでいて、姪っ子であるアイとルナをとても可愛がってくれていた。休みの日には、よくごはんを一緒に食べたり、ドライブに行ったりしていた。
その日も、そんな平和な1日のはずだった。
‥そう、あの事故が起こる前は。
お父さんは、一車線の狭い道で車を走らせていた。
「ん!?!?なんか、あの遠くにいる車、こっちに向かってないか!?」
横にいるお母さんに慌てて尋ねる。
「そんなわけないでしょう。一方通行よ。」
助手席のお母さんは笑い飛ばした。
アイとルナのチャイルドシートの真ん中に、挟まるように座っていたおにいちゃんの顔が青ざめた。
「いや、こっちにきてる!!!運転がおかしい!!!」
向かってくる車は左右にフラフラと揺れながら加速している。
おにいちゃんはとっさにアイとルナの頭の上から大きなブランケットをかぶせ、2人の体を毛布の上から片方ずつの手で抑えた。
「わっ!!!まっくら!!!」
「なに??こわい!!」
「アイ、ルナ、今から絶対に動くな!!出ていいっていうまで、絶対に毛布のなかにいるんだぞ!」
いつも優しいおにいちゃんの、聞いたことのない恐い声に、アイとルナはびっくりして固まった。
—激しい衝撃音とともに、アイとルナは意識を失った。—
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おにいちゃんは、体のあちこちに残る大きな古傷を眺めた。
「アイと、ルナは、本当に、"奇跡の子"なんだぞ。」
おにいちゃんは2人に言い聞かせるように繰り返した。
「おにいちゃんも、そんなに傷だらけになったのに、よく死ななかったよね。」
ルナが淡々と喋る。
「きっとお星様が、アイとルナのために、おにいちゃんを救ってくれたんだ。」
そう言うとおにいちゃんは部屋を暗くして、家庭用のプラネタリウム投影機をつけた。
「はぁ。出たよ、おにいちゃんの星空カイセツ!」
ルナはめんどくさそうに言った。
「いいだろ、つけたって。別に今日は解説はしないよ。おにいちゃんが癒されたいだけだ。」
天井一面が綺麗な星空に変わる。
「あの星のどこかに、パパとママもいるのかな。」
アイが
「星じゃなくて、天国にいるんだよ。星にいるとか言ったら、学校でみんなに笑われるからね。」
ルナはすかさず口を挟む。
「いいじゃない、星でも天国でも。パパとママが幸せなら。」
アイは表情を変えない。
「そうだな。」
おにいちゃんもにっこり微笑んだ。
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